研究課題/領域番号 |
16K03494
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研究機関 | 愛知大学 |
研究代表者 |
野田 遊 愛知大学, 地域政策学部, 教授 (20552839)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | シェアードサービス / 自治体連携 / アウトソーシング / 事務委託 / 垂直補完 |
研究実績の概要 |
昨年度まで進めた先行研究と統計分析、自治体インタビューをさらに進め、シェアードサービスの類型化の吟味とメリット・課題を析出した。米国調査では、消防をはじめシャードサービスを展開するSt CharlesやGeneva等、シェアードサービス研究を進める北イリノイ大学、シカゴのCOG、ほとんどのサービスを委託しているロサンゼルス近郊のLakewood等に調査を行った。 まず、類型化に関しては、サービスの種類や性質、コスト、地理的特性が主要な軸になる点、政治的合意可能性も想定されたが、サービスの種類や性質そのものが政治的合意可能性を規定する要因であることがわかった。実際には自治体間の連携可能なサービスをテーマに進められ、いずれかの自治体が当該テーマで喫緊の課題を抱えていることが多いことが判明した。 シェアードサービスの効果の一つは、施設や設備、スタッフのシェアによる財政効率化である。特にIT関連や水道施設等の資本コストがかかる場合の効率化効果は高い。次に専門性の高いサービスの確保である。たとえば建築確認、高い訓練を受けた消防士や警察があげられる。三つ目は官僚制の低減であり民主主義の強化である。アウトソースの状況をパブリックヒアリングを通じて民主化の強化が図られていた。他方、デメリットにはコントロールの低減がある。また、市民のアイデンティティの希薄化、公務員の雇用低減という課題もあった。一方、日本の場合は一部事務組合の過剰組織化が行政全体の非効率につながっている点も検証した。 これらの課題を解決する方法の基本は、委託状況と成果を絶えず公表する透明性にある。たとえば、Lakewoodでは、5年間の財政収支をアウトソーシングの観点から市民にわかりやすくとりまとめた一覧表を作成しアカウンタビリティを強化している。これら民主化強化の方途をさらに検証していくことが今後の主要課題の一つである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定どおり、前年度に収集できなかったシェアードサービスに関わる先行研究の収集を着実に進め、統計データによる収集と分析、そして、国内外の自治体へのインタビューを展開し、シェアードサービスの類型化作業や効率化、課題分析を行ってきた。平成29年度は、前年度に明らかになったシャードサービスの多様化をふまえ、さらに事例を多く収集するために、シカゴ周辺のシェアードサービス先進地域の自治体やその研究を行う大学、さらにシカゴ大都市圏のCouncil of governmentという自治体連携組織のほか、ロスアンゼルス近郊のLakewoodやMaywoodといったアウトソーシングを進める自治体にもインタビューを行うことができた。これらのインタビュー先はこれまで日本の研究で詳しく紹介されたことがなく、シャードサービスの長い実績と最新の状況を把握することができた。日本の自治体については、愛知県や県内市町村を対象に、自治体連携の状況に関する情報収集を図った。特に一部事務組合に関わる事例では、共同設置を進めるごみ処理施設等に関して情報を収集した。 一方、計画が一部遅れている点は、米国での自治体アンケートについてである。前年度に引き続きもう少しシェアードサービスの種類を網羅する必要性があり、あわせてアンケート手法を再検討すべきであると考えたためである。特に近年公表された先行研究では従来の調査とは異なる手法が採用されている。具体的には、調査の対象者にランダムにサービスに関わる情報を伝え、それに基づく実験的な情報収集を行うランダム比較対照実験の必要性である。日本では十分に活用されていないためその手法採用も検討に値するが、一方で、海外では、ランダム比較対照実験への懐疑的意見も提示されるようになっており、少し時間をかけていずれの手法が望ましいかを検討のうえ、調査を着実に進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後、手法の吟味をへて、アンケート調査によりシェアードサービスの可能性を引き出すことができる情報収集を確実に進める。さらに、米国自治体については、さらにシェアードサービスの事例をより広い範囲かつ多く収集、分析することとあわせて、日本の自治体へのインタビューも継続的に進め、シェアードサースの類型化とそれに基づく効果と課題、日本への適用可能性を析出する。 そのうえで、これまで積極的に行ってきた海外ジャーナルへの掲載や国際学会への報告も進めたい。国内での研究成果報告ももちろん重要であるが、海外の事例をふまえて発展させた日本の地方行政に関わる知見は、大きな政府を追求してきた自治体の生き残り戦略を明示する意味において、他の先進国の地方政府の経営に有益であると認識している。 このため、2018年6月にチュニジアで行われる国際行政学会(International Institute of Administrative Sciences: IIAS)でシェアードサービスの研究成果を財政的レジリアンスに関連付けて報告する予定であり、その他、9月のEROPA(Eastern Regional Organization for Public Administration 「行政に関するアジア・太平洋地域機関」)での報告も進めたい。あわせてそれらの成果をふまえて海外の自治体に焦点をあわせた査読ジャーナルへの掲載をめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主たる理由は、米国におけるアンケート調査が未実施であることである。アンケート調査は研究対象であるシェアードサービスの類型化のさらなる吟味の必要性と、近年の研究手法で採用されているランダム比較対象実験への対応検討の必要性が生じたためである。あわせて、国内の自治体へのインタビューについては、自治体の審議会等の委員を行っていた関係から、審議会等の日に、あわせてインタビューを行うなどしたため、科学研究費補助金からの旅費が必要なく、効率化が図られれたという側面もある。 平成30年度は当初の予定どおり、アンケートを実施するとともに、米国での調査を継続的に遂行し、その他、海外での研究成果の発表も行うため、当初の予定通りの調査総額を使用する予定である。
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