両大戦間期日本において重要な役割を果たした政治家・軍人の安全保障構想を、当時の東アジアをめぐる国際環境のなかに位置づけながら比較検討するため、 本年度は、おもに1910年代政党政治期の主要政治家・軍人の安全保障構想を、その国家構想、世界戦略と関連づけながら分析・検討した。また、3 年間の研究の「まとめ」と、それに必要な補助的な資料収集もおこなった。 とりわけ寺内正毅、山県有朋、原敬、高橋是清などの安全保障構想・世界戦略と、中国側の対日政策および欧米諸国の東アジア政策、英米政治指導者の東アジア政策構想を詳細に分析した。この時期に、政党政治期における安全保障構想・世界戦略の原型が形成されるので、その過程の把握にも特に留意した。中国側では、この時期の孫文、張作霖、陳友人などの構想を、米英では、ウイルソン、ブライアン、ヒューズ、バルフォア、カーズンなどの対日政策構想、東アジア政策構想を検討の対象とした。 この時期の政治家・軍人は、第一次世界大戦後の国際連盟創設など新しい世界秩序の形成を多かれ少なかれ意識していた。ことに原敬、高橋是清は、その点を強く念頭においており、ワシントン会議への日本の対応は、このことを抜きにしては考えられないことを明らかにした。それが1920年代の浜口雄幸の、国際連盟を中心とする多層的多重的条約網の形成という独特な安全保障構想につながっていく。また、1930 年代、40 年代前半の政治家・軍人の安全保障構想、その世界戦略も、1910年代に形成される新しい世界秩序に対抗しようとするものだったことが改めて明確になった。
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