研究課題/領域番号 |
16K03499
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
山谷 清志 同志社大学, 政策学部, 教授 (90230599)
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研究分担者 |
今川 晃 同志社大学, 政策学部, 教授 (50183744) [辞退]
窪田 好男 京都府立大学, 公共政策学部, 准教授 (60330411)
橋本 圭多 同志社大学, 政策学部, 助手 (60755388)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 政策評価 / 18才選挙権 / アカウンタビリティ / シチズンシップ教育 |
研究実績の概要 |
2016年度は以下の研究実績がある。①論文「地方分権改革と財政危機の自治体評価-20年のレビューから-」『日本評価研究』Vol.16,No.1,p.31-45。②学会報告「シンポジウム 「18才選挙権と政策評価」、公共政策学会第9回関西支部研究大会、2016年9月24日に京都産業大学で口頭発表。③学会報告「政策評価とアカウンタビリティ再考 ―「18才選挙権」の意義」、日本評価学会第17回全国大会、2016年11月26日、広島大学で口頭発表。 ①では日本国憲法の重要な柱のひとつであり、「地方自治は民主主義の学校である」と長年言われてきた地方自治の低調な状況から議論を始めている。20世紀末、自治が進展していない中で期待された地方分権改革のもとで注目され、三重県、岩手県などの改革に熱心な地方自治体で採用された政策評価が、いつの間にか行政の内部管理スキルの行政評価に後退した経緯を述べている。財政赤字による地方自治体の倒産の危機(夕張ショック)がその原因である。この後退の中で、市民が地方自治体の政策に無関心になっている状況を克服する手段として、市民参加型の政策評価の可能性を模索したのが②の報告である。すなわち、新しく有権者になる18才にシチズンシップ教育をするのであるが、そのシチズンシップ教育のメニューに政策評価と地方自治体のアカウンタビリティを考える方法を入れれば、民主主義にとって貢献できるはずだと考えたのがこの報告である。それを具体的に示しつつ可能性を探ったのが③である。欧米では「評価は民主主義のリテラシーである」と言われるが、政策評価が十分根付いていない日本社会では、民主主義のリテラシーを教える場としてシチズンシップ教育(政策評価とアカウンタビリティ)に期待するところが大きい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度の研究は論文執筆も学会報告も行っている。また、内容に関しても論文、報告共に一定の評価を得ている。すなわち、18才選挙権問題、市民参加、政策評価、アカウンタビリティの追及などを取り上げているところが注目されている。 従来、政治学と教育学の研究分野でのシチズンシップ教育とその実践研究は多い。ただ、その内容は民主主義に関する哲学、歴史、思想であり、あるいは普通選挙制度の歴史とその解説である。ただ、若者(高校生)からみれば古臭い思想や哲学、歴史では関心を持てない。また選挙管理委員会や教育委員会の行政実務・教育現場では、政治的中立性の要請がきわめて強く、教育現場にイデオロギーを持ち込ませない仕掛け、政権批判をさせない方法を積み重ねてきた。その副作用として、教師を萎縮させ、教育内容の現実感、現場感覚を喪失させてきた。結果として教育現場では模擬投票、ワークショップなどに落ち着くが、こんどは高校性がそうした教育活動の稚戯性に反感を持つ。こうして理論研究と実践はともに若者の政治参加の意欲を喪失してきた。 ここに本研究のオリジナリティが高いことが証明される。政治イデオロギーとは無関係の政策評価、アカウンタビリティというすべての民主国家にとって重要な機能を使うからである。要するに、これまでのシチズンシップ教育ではアカウンタビリティ概念を使っていなかったところに問題があると、本研究は考えている。 なお、高校の教育現場との接点も重要である。青森県立青森高校が採択されたスーパーグローバル・ハイスクール事業(平成26年度~30年度)の運営指導委員会委員長を務めており、高校生と現場の高校教員に接し、直接インタビューする機会が多い。想定していなかったが、この研究にとってプラスに働いている。地方創生とは消滅する自治体、過疎化する地域を対象にしたテーマだからである。
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今後の研究の推進方策 |
当初研究申請時に想定していなかった出来事がみられる。すなわちポピュリズムである。 多くの研究者がさまざまな視点でポピュリズムの問題を指摘するが、この研究で注目するのはファクトチャック無しの言説、根拠の無い数字(数字が無い言説)、誤認放言、フェイク発言である。こうして市民を誤った政策目的に誘導するのがポピュリズムの課題である。したがって、高校や大学の初年次教育で教えるのは、冷静で客観的な議論をする方法、エビデンスに基づいた政策判断の方法である。そこで注目するのが参加型評価と参加型予算である。 参加型評価は公開の場で利害関係者(ステークホルダー)、市民が参加して特定事業を評価することである。もちろん感情やイデオロギーで判断しないように、事前に勉強会をする必要がある。その勉強会で市民同士が互いにエンパワーメントしながら学習するために行う評価がエンパワーメント評価である。こうして熟議を重ねる評価、熟議評価が可能になる。 もっとも、熟議だけでは議論のための議論になってしまう。何のために議論しているのか、分からない。これまでの多くの参加型評価の実戦が巧く行かなかったのは、このためである。無目的な議論に疲れたのである。そこで、予算作成にも市民を関与させる方法が生まれ、注目されてきた。代表的な方法は二つある。一つは一定の予算枠、特定事業(ふるさと納税)、政府の交付金などを対象に、予算審議をしてもらう方法である。もう一つは国際援助、政府開発援助(ODA)でProject Design Matrix(PDM)、あるいはLogical-Frameworkである。参加型評価と参加型予算を共に実践できる場がこの二つである。 2017年度はこうした視点から、参加型評価、参加型予算の研究を進め、可能であれば、それらが政府や地方自治体のアカウンタビリティ追及にどれだけ貢献できるかを考えたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額1696円が生じたのは、①年度末にきわめて多忙になり、調整が巧く行かず、資金の使用計画の進捗が予定通りに進まなかったからである。②また、研究費の使用が可能になるのが初年度のため大幅に遅れたこともあった。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年度は2年目であるので、研究費の使用が年度初めから順調であり、スムーズに進むと思われる。
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