研究課題/領域番号 |
16K03505
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
東原 正明 福岡大学, 法学部, 准教授 (00433417)
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研究分担者 |
福田 宏 成城大学, 法学部, 准教授 (60312336)
小野 一 工学院大学, 教育推進機構(公私立大学の部局等), 教授 (80306894)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 原子力政策 / 脱原発 / 中央ヨーロッパ / ドイツ / オーストリア / チェコ / スロヴァキア / 比較政治学 |
研究実績の概要 |
2017年度は、研究分担者がそれぞれのテーマに則して研究を遂行するとともに、随時研究会を開催した。また、海外現地調査を行った。 各研究分担者は、研究分担に従って文献の収集と調査研究を行った。小野は、「国策としての原発推進政策の破綻と地方自治」(『環境と公害』47巻2号、2017年)で、原子力政策の問題点を地方自治と関連させて論ずるなどした。福田は、「スロヴァキア:国民記憶院」、「現代スロヴァキアにおける歴史論争:第二次世界大戦期の位置づけをめぐって」(ともに橋本伸也編『せめぎあう中東欧・ロシアの歴史認識問題:ナチズムと社会主義の過去をめぐる葛藤』ミネルヴァ書房、2017年)においてスロヴァキア政治史について整理し、同国の原子力政策が形成される背景を考察するなどした。東原は、「2016年大統領選挙とオーストリアの極右政党 : 難民危機が与えた影響」(『福岡大学法学論叢』62巻4号、2018年)において極右政党の主張を整理し、次年度の原子力政策に関する学会報告に向けた基盤作りを行った。 現地調査のうち海外調査に関して、東原は6月にオーストリアで実施し、同国国立図書館で資料収集を行った。小野は3月に、8月よりウィーンで在外研究中の東原とともにドイツで実施し、同国の放射性廃棄物中間貯蔵施設を訪問したほか、反対運動の動向についても直接情報収集した。 研究会は4月に実施し、本共同研究の進め方について意思統一を図り、2018年度比較政治学会でパネルの構成、報告内容などについて具体的な内容を確認した。また6月には、比較政治学会後に小野と東原が次年度の学会報告についてさらに意見交換を行った。そして3月には、ウィーンにて小野と東原が研究会を行い、オーストリアの原子力政策について議論を深めたほか、前月2月には福田のヨーロッパ出張時を捉えて東原と今後の研究の方向性について検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二年目となる2017年度は、初年度に引き続き各研究分担者がそれぞれの研究分担に従って文献の収集と調査研究を行った。小野は、発表した論文や研究発表を通じて、原子力政策を国政の視点ではなく地方自治の視点から検討するとともに、ドイツの政治的変容や「エコロジー的近代化」の理論的側面など、原子力政策の総合的把握を行ってきた。福田は、チェコやスロヴァキアにおける社会主義の影響を歴史的に扱うなどの作業を通じて、旧社会主義諸国における原子力政策を分析するためのイデオロギー的前提について解明を進め、次年度に向けて必要な研究を続けている。東原も、極右政党の政策や動向をオーストリアの現状に則して整理し、2017年度比較政治学会において報告を行うとともに、同報告を発展させて論文にまとめ、脱原子力国家である同国の原子力政策に関する論文執筆につながる研究を行っている。 また、海外調査は、2017年度は東原がオーストリア国立図書館にて資料収集を行った。小野は、在外研究中の東原とともにドイツ・ゴアレーベンの放射性廃棄物中間貯蔵施設とその反対運動に関する実地調査・インタビューを行った。同施設が旧東西ドイツの境界近くに設置されていることから、原子力施設と境界(国境)、あるいは産業に乏しい地域の関係を考える上で重要な示唆を得ることができた。 研究会について、第1回研究会では2018年度比較政治学会での報告内容について整理・確認することができた。さらにウィーンにて行った第2回研究会では、東原の研究内容をふまえてオーストリアの原子力政策関する具体的かつ建設的な議論を行った。さらに、学会など様々な機会に意見交換を行っており、最終年度における成果の取りまとめと発表に向けた準備を整えることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は、3年計画で進められる本共同研究の最終年度であり、研究の取りまとめを行うことになる。 過去2年間に行われた各研究分担者の研究及び海外調査を通じて、6月に開かれる2018年比較政治学会においてパネルを組み、報告するための準備を進めることができた。このパネルは、中欧の国境地帯に原発が設置されていることをふまえ、国民国家の枠組みを暗黙の前提に行われてきた原子力政策研究にも本的な問い直しを迫り、ヨーロッパの中央部で国境を接する国々の原子力政策を比較することを通じて、一国の単位を超えてこの問題を論じるための視座を提示しようと試みるものである。本共同研究は、国境地帯に原発を抱える諸国を対象として、原子力政策を地方政治の観点から捉え直し、地方政治と国家を超える欧州の政治を研究することで、原子力政策のみならずナショナルな政治の相対化を行おうとするものである。その点で、上記学会報告は本共同研究の重要な成果を広く社会に発信する場となろう。 この学会報告に基づいて、各研究分担者は論文の執筆を進める。その際には、必要に応じて海外調査を追加的に行う可能性があり、それぞれの研究対象国の地方自治体やエネルギー所管官庁、政党、研究所などを訪問することになる。 本年8月まで東原は在外研究中のため、研究会は9月以降に2回程度予定している。意見交換と研究成果の公表に向けた調整の場として有効に活用したい。また、本共同研究の内容を多面的に検証し、その深化・豊富化に資することを念頭に、ゲストスピーカーを招くことも検討したい。 研究成果は完成したものから随時公表し、学術的に貢献することとしたい。地域研究コンソーシアム(京都大学地域研究統合情報センター)発行の学術雑誌『地域研究』に特集を組んで発表することも検討するほか、重要な論文については著書の形で出版物として刊行することも目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 研究代表者である東原が所属する福岡大学では、科研費を交付されている研究代表者が応募可能な学内の競争的研究資金がある。東原は2016年度にこれに応募し、2017年度も引き続いて研究費を受けることができたことから、本科研に関連した国内出張や文献購入の費用にこの資金を充てることができた。さらに、8月よりウィーンにて在外研究を行っているため、出張旅費の支出を抑制できたことも、東原に次年度使用額が生じた大きな理由である。また、福田も他資金を受けていることから、それら資金を有効に活用する中で、自身の研究活動全体を通じた研究費の効率的な執行に努めており、次年度使用額が生じることになった。 (使用計画) 2017年度に生じた次年度使用額は、各研究分担者で再配分し、文献等の購入や国内外の旅費(調査・研究会出席等)のために有効に活用したい。また、東原が比較政治学会にウィーンから出張するための旅費としても活用される。可能であれば研究会にゲストスピーカーを招く際の資金として使用することも検討したい。
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