研究課題
昨年度に引き続き史資料調査を進めながら、研究成果を公表するための作業に精力的に取り組んだ。これまでの研究成果の一部は、英文の研究論文として発表できた。本年度は、これまでほとんど実証研究が進んでいない1950年代・60年代の日本のウラン濃縮技術開発に焦点を合わせ、それに米国の対応や国境を越えた技術情報の拡散が与えた影響の解明を主な課題とした。ウラン濃縮は日本における核燃料サイクルの一環をなすものとして、その研究開発が進められる一方、軍事転用の危険がある技術として広く認知されており、本研究課題の目的を達成する上で格好の研究対象であると考えたからである。そのための史資料調査は国内で行った。国会図書館では日本の原子力開発や日米原子力協力、日本の国内政治、日米関係に関する文献・資料を調査した。その結果、従来の研究では利用されていないものの、本研究の遂行に有益な資料を数多く調査、収集できた。また、米国の研究機関National Security Archiveのデータベースを利用して米国の機密解除文書の調査も行った。さらに外務省外交史料館にて、関連する戦後外交記録の調査も行った。史資料調査と並行して研究成果の公開にも努めた。これまでの成果の一部として、日本の再処理技術開発に影響を与えた国際要因について考察した英語の研究論文を発表した。この論文は米国の研究機関Wilson Centerが出版した編著書に収められ、同機関のウェブサイトで公開されている。また、日本の再処理技術開発に対する米国の対応を詳細に分析した英語論文を、昨年度中にJournal of Cold War Studiesに投稿していたが、査読手続きを経て同誌掲載が決定した(掲載時期未定)。
2: おおむね順調に進展している
史資料調査の面では、おおむね目標を達成できた。本年度は所属機関での業務増大により、海外調査を行う日程を確保することができなかった。しかし、平成29(2017)年から平成30(2018)年にかけて行った米国での在外研究の間に、日本のウラン濃縮研究への米国の対応に関連する史料(米国政府の機密解除文書など)をかなり調査、収集していたため、そのことは研究成果の取りまとめの大きな障害にはならなかった。その代わりに日本国内で集中的に資料調査を行うことにより、日本のウラン濃縮研究の実態やそれに影響を与えた国際的要因を実証的に解明する上で非常に有益な資料を数多く調査、収集することができた。その結果、本研究課題の一部として、日本のウラン濃縮研究に関する研究論文を作成する見通しが開けた。研究成果の公開に向けた準備にも進展があった。まず、日本の再処理開発に関する英文の研究論文を公表することができた。また、日本の再処理開発に対する米国の対応を、その原子力政策や核不拡散政策と関連付けて論じた投稿論文が海外査読誌に掲載されることが決定した。その準備と並行して、日本のウラン濃縮研究に関する英文の研究論文の作成に取り組んだ。なお、本年度が研究期間の最終年度に当たっていたが、その延長を申請した。本年度の研究費の残りを来年度に繰り越し、英文校正の費用に充てることにより、作成中の論文の公開を促進することができると考えたからである。延長が認められたので、残りの研究費を活用して研究論文の公開の準備を進めたい。以上のとおり、本研究課題の遂行に必要な史資料の調査は着実に進み、研究成果を公表するための準備にも進展があった。研究成果の公開も進んだ。本研究は全体として概ね計画に沿って順調に進展していると評価できよう。
令和2年度は、これまでの研究成果を踏まえて本研究を取りまとめる作業に取り組む。具体的な目標として、日本のウラン濃縮技術開発に米国の対応など国際的要因が与えた影響について論じた研究論文を完成させ、海外査読誌に投稿する。また、本研究の分析枠組みをまとめた論文を作成し、本研究の成果を国内向けに公開するための準備を進める。研究費は英語論文の英文校正の費用に充当する。その他の必要な費用は別の研究費で賄う。
海外査読誌への投稿を目指して研究論文の作成に取り組んだが、育児と所属機関の業務の多忙化が重なり、年度末までに論文を完成し、英文校正を業者に依頼することが困難な見通しになったため、研究期間の延長を申請した。残りの研究費は、研究論文の英文校正費として使用する。
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Joseph F. Pilat (ed.), Nuclear Latency and Hedging: Concepts, History, and Issues (Washington, D.C.: Woodrow Wilson International Center for Scholars)
巻: なし ページ: 201~229