本研究は、これまで申請者が実施してきた「崩壊国家」と国際秩序に関する諸問題を、北東アフリカ地域における新たな現象を取り込む形でさらに深化・発展させることを目的としたものである。本研究においては、従来のの成果を踏まえるとともに、ソマリアだけではなく隣国ケニア、エチオピアなどとの関係(本研究では北東アフリカ地域、あるいはアフリカの角)においても新たな展開を見せている崩壊国家の提起する新しい課題を、実証的に検討することを主たる狙いとしたものであった。本研究においては、北東アフリカ地域における地域国際関係の変容等に着目しながら、研究を進めた。 ここで興味深いのは隣国エチオピアとの関係である。冷戦終了後の時期におけるエチオピアの状況は、ソマリアにおける「崩壊国家」の生成と極めて密接に関わっていたことなどを改めて明らかにする作業を行った。エチオピアにとっての安全保障上の最大の課題は、まさにソマリアに起因するものであった。様々な和平交渉が行われたにもかかわらず、1991年以降21年にわたり国際的に承認を受けた中央政府の樹立に失敗してきた。ソマリアに対してエチオピアは、イスラム主義勢力アル・イーティハード・アル・イスラーミの主要基地の破壊のための越境攻撃をするなど、その掃討活動を1990年代半ば以降の時期から実施した一方、和平プロセスにも関与し、北部ソマリアのソマリランドやプントランドと良好な関係を維持してきた。 ただし、他方でこうした関与が、北部ソマリアでは、秩序を形成しようとしたり、そのための正統性の根拠を模索したりする形でこの地域における社会の回復力としてのアフリカ潜在力が作用している姿を示すほか、同時に相容れない競合的な性格を帯びることで秩序の喪失にもつながる側面も明らかにした。その意味において、「国家のあり方を交渉する」ダイナミズムとして、極めて興味深い現象であることを確認した。
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