研究課題/領域番号 |
16K03512
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
木宮 正史 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30221922)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 韓国 / 朝鮮半島 / 北方外交 / 冷戦 / デタント / 北朝鮮 / 共産圏外交 / 第三世界外交 |
研究実績の概要 |
韓国の1970年代から80年代の外交文書を韓国外交史料館での調査を通して収集することで、朴正煕政権とその後継政権である全斗煥政権の外交を、特に、対共産圏外交と対第3世界外交に焦点を当てて解明する作業を持続した。その暫定的成果を、「一九七〇年代朝鮮半島冷戦に関する試論的考察:グローバル冷戦のデタント化と韓国外交」『思想』2016年7月号、「1970年代第三世界をめぐる南北外交競争と韓国外交」『現代韓国朝鮮研究』第16号、という二つの論文として発表した。韓国の外交文書は1986年までのものが公開されているだけに、韓国の北方外交がどのような要素を考慮しながら展開されたのかを明らかにする作業は相当程度可能であると考えている。 また、2016年9月には約2週間英国外交史料館を訪問して、朝鮮半島をめぐる英国外交文書に関する調査を行った。この史料を使った研究成果はまだ出していないが、今まで日米韓3カ国の外交文書を利用して研究を行ってきた本研究者にとって、英国外交文書が示す視点は非常に興味深いものであり、研究の視野を広げるのに多大な貢献を果たした。特に、1970年代から80年代にかけてはヨーロッパにおけるデタントが本格化する時期であるだけに、英国と韓国、北朝鮮との関係に関しても、南北朝鮮の外交競争という側面が非常に明確に伺うことができる。また、英国のみならず英連邦諸国の間でも、韓国と北朝鮮との従来の関係を再検討することも行われていた。 こうした新たな史料を開拓することで、韓国の北方外交の展開をより一層広い視野で、特に、それが国際政治の中で持った重要な意味を、実証的かつ理論的に考察する作業を行っていく。そして、南北外交競争において韓国外交がどのような目標を設定し、どのような手段を駆使して、それに勝利することを目指したのかを明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
何よりも、英国外交史料館を訪問して、朝鮮半島研究者があまり利用していなかった英国外交史料の調査とその利用に取り組んだことの意義が大きかった。朝鮮半島には一見英国がそれほど関与していないので、あまり意味がないと考えられるかもしれない。実際、期待半分程度で調査を行ったのだが、そこで獲得することができた知見には予想をはるかに越える貴重なものがあった。英国自体がやはり大英帝国の遺産を持ち、さらに英連邦諸国の中心として、相当程度のグローバルな利害や視点を持っていることが反映され、外交文書にも、狭い意味での英国の利益だけではなく、グローバルな状況に対する英国の認識が反映された文書が豊富であった。 特に、英国は、1970年代に入ると、北朝鮮との関係改善の可能性を探るのだが、それに対する、韓国および北朝鮮、さらには、日本やアメリカの働きかけを解明することができたのは大きな収穫であり、マルチアーカイブという手法がいかに重要な意義を持つのかを今一度再認識した。 また、韓国外交の基本資料である韓国外交文書についても、公開された最新の文書である1986年の文書を調査することができた。まだ、分析の途上であるが、特に、韓国が民主化の渦中にあっただけに、そうした韓国の内政と外交との連関に関して興味深い史料を発見することができた。単に、韓国外交だけに焦点を絞るのではなく、韓国の内政と外交の連関を念頭に置いたうえで韓国外交を分析することこそが、朝鮮半島地域研究者としての比較優位だと考えられるので、そうした優位さを活かした研究を進捗していく。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度に関しては、韓国外交史料館を訪問することで、1980年代の韓国外交に関する調査を行う。特に、この時期は、権威主義体制から民主主義への移行期に当たり、国内政治の変動期でもある。こうした韓国の内政が、韓国の北方外交の展開にどのような関連を持つのかに焦点を当て、内政と外交の連関という問題意識に基づいて研究を進める。その研究成果を韓国政治学会主催の学術会議で「民主化と国際政治」というタイトルの論文として発表する予定である。 それから、アメリカの国立公文書館での調査を計画しているが、近年、国立公文書館の新たな史料公開がそれほど進んでいない状況である。また、インターネットなどを通して文書公開が進んでいるという状況もある。したがって、アメリカ国立公文書館での調査に関しては、調査の有効性を考えて史料公開の進捗状況をにらみながら2017年度に行うのか、2018年度に行うのかを決定する予定である。 その代わり、2017年度は日本の外交史料館で日本の外交文書の調査を積極的に行うことを計画している。特に、1970年代の外交文書に関しては公開が進捗している状況であるので、日本という視点から韓国の対共産圏外交、北方外交の進展を再照明することができると考えるからである。 その他、朝鮮半島を取り巻く現状についても、以上の現代史研究の知見に基づいて、日韓関係、日朝関係、さらには、北朝鮮の核ミサイル開発をめぐる国際関係などについて、現状分析を進めることを考えている。
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