本年度は最終年度であり、セルビア政治学研究所創設50周年記念の会議において報告書「ユーゴスラヴィア外交政策:その歴史・理論的貢献」を提出した。今年度の研究においてはユーゴスラヴィアおよび旧ユーゴスラヴィア(とくにセルビア共和国)の外交について三つの時期に分け、その国際政治史的意義および国際政治学における理論的貢献について総括的にまとめることを中心に研究をすすめた。その際の視座としては(1)歴史的「ノー」(意義申し立て)、(2)ユーゴスラヴィア的精神としてのinat(頑強さ)の表出、(3)対外的試練、(4)抵抗運動、(5)理論的貢献である。 第一期は(1918-1945年)では1941年3月の三国同盟加盟への歴史的「ノー」と「奴隷よりも死を」「同盟よりも戦争を」の精神によるパルチザン闘争そして民族解放と反ファシズム闘争の結合による社会主義国家の建設であり、民族と社会主義に関する理論的貢献を挙げることができる。第二期(1945-1990年)では、1948年6月のソ連覇権主義とコミンフォルム追放への歴史的「ノー」と、国際的孤立をもいとわない自立性の主張であり、東西冷戦における非同盟運動と非同盟外交政策、第三世界の諸国との連帯における国際政治への理論的貢献は傑出したものであった。特に非同盟運動と社会主義理論の統一にむけた貢献は特筆に値する。第三期(1990年以降現在まで)では、ユーゴスラヴィア解体への諸大国・国際機関による国際社会の介入、さらにコソヴォ危機(1999年)におけるNATOの人道的介入に対する歴史的「ノー」と冷戦後の秩序形成としての民主化支援・平和構築への政治的抵抗と理論的批判などを中心に国際社会への異議申し立てをどのようにとらえるかが重要な視点として浮かび上がらせた。以上が今年度の研究の概要である。
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