研究課題/領域番号 |
16K03519
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
友次 晋介 広島大学, 平和科学研究センター, 准教授 (90622019)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | バグダッド条約原子力センター / コモンウェルス原子力閣僚会議 |
研究実績の概要 |
米英の競合関係と協力関係が原子力分野で錯綜していたことがより詳細に明らかになった。調査の結果、原子力がイギリスの威信を保つための手段であったことが改めて確認された。1952年の政策文書では「アメリカ人に先んじて成功し、イギリス人の非凡な才能を世界に示すことができる領域」ゆえに重要であることが示されていた。1950年代後半、イギリスとアメリカは原子力分野で互いをライバル視していた。1957年英原子力省の文書では勢力圏で紐帯を保つために原子力を活用することも明確にされていた。 一方で、イギリスがアメリカの支援を都合よく取り入れることに腐心したことも分かった。例えばバクダッド条約原子力センターの構想に関するイギリスの政策文書では、同センターへの出資にアメリカのロックフェラー財団が関心を示したことが注目されていた。これはイギリスが資金面でアメリカの協力を得たがっていたことの傍証と思われる。またバグダッド条約原子力センター(イランに移転)では、イギリスは原子炉を供与できず、結局アメリカがイランに提供した原子炉を活用している。しかしイギリスは製造元のアメリカに言及することなく、イギリス主導のセンターの一部として対外的に宣伝していた。 1958年9月の「コモンウェルス原子力閣僚会議」の際には、コモンウェルス諸国からの期待が高くなりすぎることへの警戒感がイギリス政府内に存在したことが窺えた。1956年7月、インド、インドネシア、セイロン、ビルマ、エジプトの5か国が集い、原子力開発協力における共通政策、協調で合意していた。このような背景も手伝っていると考えられる。 コモンウェルス原子力科学者会議が開催されていることも分かったが、イギリス側の文書では、詳細は分からなかった。越境的な知のネットワークへのイギリスの関与について、今後オーストラリア、カナダでの調査により明らかにするよう目指したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では、英米の競合関係と協力関係が原子力分野で錯綜していたことがより詳細に明らかになった。日本国内の専門図書館での調査は未達であるが、イギリス国立公文書館および同国の専門図書館における、バグダッド条約原子力センター、アジア原子力センター、ハーウェル原子炉学校、及び1950年代から60年代のコモンウェルスの原子力協力に関する史料の渉猟が予定通り完了した。連携研究者との研究会の開催、断続的な情報交換などによって、主に対外文化外交の一環として展開されていたアメリカの原子力協力についての知見を得ることもできた。イギリスの対外文化政策のより微妙な部分、つまり自らの能力の限界を強く意識しつつ、アメリカの協力を得ながらも、脱植民地化の趨勢にあって勢力圏には極力影響力を維持しようとする姿勢が、とくに原子力分野において明らかとなった点、本年度の成果はおおむね順調に達成できたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ハーウェル原子炉学校や新たに判明したコモンウェルス原子力科学者会議について、追加的に調査を進める必要がある。科学者やエンジニアによる越境的な知のネットワークにイギリスがどうかかわっていたのか、積極的に支援していたのか、またはしていなかったのか、それはどうしてなのか、イギリス側の史料を調査したが、旅行や宿舎などロジ関連の情報ばかりで詳細は分からなかった。このため、今後この問題については、オーストラリア、カナダの国立公文書館の調査、2次文献のより広範な調査によって明らかにすることを目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
連携研究者計3名の英国での史料調査を計上していたが、連携研究者1名(愛媛大学・土屋由香)の米国での史料調査のみとなったことが原因である。なお、研究代表者の英国における調査が進捗したこと、さらに英米での原子力競合関係の調査に資するとの判断から、連携研究者には米国にて調査を行ってもらった。残りの2人の連携研究者については、本人都合により、外国旅費を必要とする研究は実施しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越し分は本年度(29年度)研究代表者が予定しているカナダ、オーストラリアでの調査への費用に充当する(日数の増加等を検討)とともに、本年度または最終年度(30年度)における連携研究者の海外旅費(イギリスまたはアメリカ)に充当する。
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