研究課題
本研究は、「国境を越えた経済活動の自由化」が「国内業界団体の政治力」に与える変化を分析することで、将来の「自由化」「グローバル化」に再帰的に与える影響の諸相を明らかにする。ある時点の貿易自由化は、国内行為者の利害関心、経済状況、産業内構成の変化などを通じて、自由化賛成派・反対派それぞれの政治力を変化させ、将来の自由化政策策定にも影響を与える。その際、モノ、カネ、ヒトそれぞれの自由化が異なる効果を持つうえ、それぞれの自由化が他の自由化の政治過程に影響するなど、そのメカニズムは動的かつ複雑である。これを整理することで、グローバル化自体が持つ国内政治的な影響を理解することが目的である。28年度は本研究の初年度であるので、事例研究のための事前調査から開始した。対象となる産業について、どの時期にどのような(モノ・カネ・ヒトの)自由化が行われ、その結果、外国との接触がどの程度増えたのか、それに対する業界団体の反応について確認した。既に大半の調査が終わっていた四国を中心としたタオル産業に加えて、それと比較しやすい事例として同じ衣料品製造業であるデニム産業、手袋産業の状況を調査した。また、地域の特性をコントロールして比較するために、四国地域の他の主要産業である柑橘農業、造船産業といった産業についても調査を進めた。その結果、商品特性、市場特性の違いによって、類似の産業であってもグローバル化の状況が大きく異なること、それによって団体内部での利害関係もかなり影響を受けていることが分かってきた。近年行われた業界団体の調査データの再検証も行ったが、ここからも、過去4半世紀の間に、上記の傾向が強まっていることが裏付けられた。
1: 当初の計画以上に進展している
28年度は、事例研究のための事前調査から開始した。対象となる産業について、どの時期にどのような(モノ・カネ・ヒトの)自由化が行われ、その結果、外国との接触がどの程度増えたのか、それに対して業界内の団体の反応はどうだったかについて確認した。初めに調査した四国を中心としたタオル産業に加えて、それと比較しやすい事例として同じ衣料品製造業であるデニム産業、手袋産業の状況を調査した。また、地域の特性をコントロールして比較するために、四国今治地域の他の主要産業である柑橘農業、造船産業といった産業についても調査を進めた。調査を進めるうちに、対象とする事例を変更・追加することで、より構造化された比較事例研究が可能となることが分かり、当初想定していた産業とは若干の入れ替えを行っているが、調査のペース自体は計画通り順調に進んでいる。また、当初の計画に加えて、グローバル化が分野横断的に与える影響について、利益団体に対して行った調査票の分析を行い、その成果を一部の事例研究の成果と合わせて、学術論文にまとめることができた(本報告書執筆の5月1日現在提出済み、編集者の作業中である)。
29年度は、各業界の業界団体の勢力や活動内容の変化の調査を、順次進めてゆく。インタビュー調査も予定している。28年度には、グローバル化が団体に与える一般的な影響についてのデータ分析と、例示のための単一事例研究(タオル産業)を利用した論文を執筆した。今後は、その他の産業との比較分析に主眼を置いて研究を行い、最終的に全体を統合して成果を得ることを目指す。
調査対象の産業を入れ替えたことにより、遠方への出張を予定していた調査が近距離の出張となったため。また、大学院生の雇用を予定していたが、適格な学生を確保できなかったため。
校務との兼ね合いで、週末にかけて国会図書館での文献調査をせざるを得ない状況であるが、混雑により想定以上に時間がかかっている。そこで、特に夏季に平日の滞在を伸ばすための旅費として活用する計画である。
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年報政治学
巻: 2017 年度第I号 ページ: 11-33
菅英輝・松井康弘・大矢根聡編『グローバル・ガバナンス学』(法律文化社)
巻: 1 ページ: 印刷中
Masayuki Tadokoro, Susumu. Egashira, and Kazuya Yamamoto, eds., Emerging Risks in a World of Heterogeneity, Springer,