本研究は第一に、中国が「一帯一路」、中でも陸上における「シルクロード経済帯」の構築を通して、上海協力機構(SCO)のメンバーであるロシアや中央アジア諸国といかなる経済協力プロジェクトを進めているか考察した。第二に、経済面での関係深化が、政治・安全保障関係の強化に貢献しているのか、もししているとすればユーラシアの地域秩序がどのような方向に変化を遂げているかを分析した。 カザフスタン(初年度)、ウズベキスタン(第2年度)、ロシア(第3年度)へのフィールド調査を通して、中国のこうした地域への経済的影響力の拡大が明確になった。ただし、それは中国の一方的な対外進出の形をとらない。たしかに、中国の政府機関や国有・私営企業の積極的な働きかけは、現地の経済発展に多大な刺激を与えている。特に中央アジアでは、中国の「一帯一路」が上記2国の独立以来初の政権交代と重なり、国家の政治基盤を固めたエリートたちが、経済振興という次のステップを目指すのを中国が支援する形になっている。しかし、社会主義国ソ連から派生したこれらの国々では、国家主権に対するこだわりが極めて強く、政府は国民の経済活動をがっちり統制している。そのため中国とこれらの国々との経済協力は、基本的に「国家対国家+α(民間)」の枠組みで行われ、中国が期待するほどのスピードで協力は進まないが、だからこそ各国政府は中国との協力に「やりやすさ」と「安心」を感じているということがわかった。 こうした経済協力のやり方は、民間の活力を多用する東アジアの伝統的経済協力とは一線を画す。しかし、各国間の政治的な信頼醸成には確実に貢献しており、地域における反テロ対策などの必要性とも相まって、ユーラシア大陸に新たな権威主義国際協力モデルを構築しつつある。この研究を通して、中国が「一帯一路」の相手国に応じて、経済協力のやり方を使い分けている可能性も浮かび上がった。
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