本研究は、パリ合意の実効性の実証分析と国際関係理論への示唆を研究の目的として設定した。これまで、パリ協定の詳細ルールの決定過程を調査するため、国連気候変動枠組条約の締約国会議に参加し、国際交渉を参与観察してきた。当初、本研究の最終年度としていた2020年度は、各国が国内措置を更新し報告する予定となっていた国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が、新型コロナウイルスの世界規模での蔓延により開催されず翌年開催となったため、本研究も一年延長した。2021年度は、一年延長されたCOP26が開催されたものの、コロナ禍下の海外出張に関する学内規定に基づき、海外出張が許されず、実態調査を行うことができなかった。このため研究期間を再延長し、2021年度にできなかった実態調査を行うため、2022年度に国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)に参加した。 本研究の最終年度となる2022年度は、これまでの調査を踏まえた最終的な研究成果として、パリ協定の実効性の評価に関する分析について論文にまとめ、査読を経て発表した。この論文では、京都議定書は、法的拘束力を持つ数値目標を先進国に定めた点は評価されるものの、参加国が減少し課題があったこと、大きな行動変化を伴う目標が先進国の全てに設定されず政治的実効性に課題があったこと、の二点から実効性に課題が生じた、と評価した。他方、パリ協定は、途上国も含め多くの国々が数値目標を提出しており、行動変化を多くの国に求める政治的実効性は担保されており、さらに、1.5度というグローバルな目標が設定され、長期目標達成に向けた各国の貢献の検証を通じて、環境的実効性も期待できることから、パリ協定は総合的に見た実効性という面で京都議定書が抱えた実効性の低下という課題を克服する試みであると結論づけた。
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