研究課題/領域番号 |
16K03526
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研究機関 | 山口県立大学 |
研究代表者 |
吉本 秀子 山口県立大学, 国際文化学部, 教授 (00316142)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 沖縄占領史 / 日米関係 / アメリカ合衆国 / パブリック・ディプロマシー / メディア / 対外情報政策 / アイゼンハワー政権 / ソフトパワー |
研究実績の概要 |
本年度は米公文書館で収集した国務省、国防総省、USCAR文書等の占領者側の史料分析を行うとともに、沖縄県立図書館で収集した米占領下における新聞報道を被占領者側の資料として比較参照し、米国の対外広報政策が当時の新聞紙面にどのように影響または反映しているかの検証を実施した。米側資料によれば、米連邦政府は、現地の統治組織USCARを通して、沖縄の言論文化政策を指導し、新聞等のメディアをその影響下に置くことを目指した。この対外広報計画は、米国の対日「国別計画」にも明記され、アイゼンハワー期には大統領行政府を頂点とする指示体系が確立した。その出先機関として沖縄に設置された渉外報道部が沖縄での広報政策を担った。本年度は、この渉外報道部が沖縄で実施した「琉球におけるマスメディア調査」とその関連文書を中心に分析を行い、この文書を回覧した米連邦政府の関係部局が対外情報政策の実施過程で、どのような役割分担及び連携を行なったかを分析した。実際の新聞報道をみると、この統治者側の計画が前面的に成功したとは言えない側面が浮かび上がった。例えば、本土からの通信社電に依拠した報道が多かった実態が沖縄メディアの分析で明らかになった。特に日本独立後、沖縄メディアは本土メディアを情報源とするニュースを増やしていった。USCARは、日の丸を日本とのつながりを象徴するものとして規制したが、実際の新聞紙面には日の丸ロゴが掲載されるなど、必ずしもUSCARの狙い通りに進捗していない事例があった。沖縄における情報空間を日本本土と分断しようとした米統治府側の政策は同政権期の対外情報政策の一部として実施された。しかしながら、言語も文化も異なる沖縄で、米国は冷戦期における対外情報政策を米国単独で実施したのではなく、琉球政府関係者、並びに東京の調査会社など、現地での「協力者」を得る形で実施したことが資料分析で明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
米側文書の収集と分析が順調に進んでいる。沖縄統治関連に関する直接的言及がある資料群がアイゼンハワー大統領図書館では思っていたより少なかったが、他の省庁の資料群と付き合わせて検討することで、省庁間の連携関係や指示体系などを分析することができたという意味で成果が得られている。大統領行政府における直接言及が少なかったことは、アイゼンハワー政権期に沖縄は大統領行政府の「直轄」になりながらも、他の対外外交政策の中では、必ずしも大統領府のメイン・テーマではなかったことを検証したことになる。しかしながら、メイン・テーマではないながらも、大統領府を中心とした国務省や国防省との関係が見えてきたという意味で、米連邦政府における各省庁の役割を明らかにする、という本研究の主な目的は概ね達成されたといえる。 一方、沖縄側の史料検討により、米国側の文書では見えてこない部分、すなわち統治政策が当初の想定通りに円滑に進んでいなかった部分を明らかにすることができた。これまで、米側の資料と沖縄側の資料は、別々の研究者によって分析されることが多く、その政策の評価や関係性が見えにくかった。本研究は、両方の資料を比較検討することで、米国政府の政策が必ずしも政策立案者側の意図通りには進展していなかった可能性を明らかにできた。このことは、当初の計画通りの成果が得られたことになる。ただし、本年度最後に予定していた沖縄県における資料収集は、新型コロナ感染症拡大の影響により、延期せざるを得なかった。しかしながら、最終年度にあたる来年度に実施できる見込みである。以上のことを総合的に鑑みると本研究は概ね順調に進捗していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に実施した米政府各部署の文書検討に続き、今後は、関係省庁を回覧された文書の省庁間の往来記録を詳細に分析することで、沖縄統治に関わった米連邦政府機関が、政策立案から決定、指示及び実施体系に至るまでの流れを解明することを目指した。アイゼンハワー大統領を頂点とした、このようなアメリカ政府内部の対沖縄情報政策に関する役割分担及び連携関係を明らかにすることは当初からの本計画の目的であったが、資料的な限界を除けば、その目的は概ね達成されつつある。 重要な手がかりとなったのは、関係の各部署に広く回覧された文書類の存在である。例えば、1957年に実施された「琉球におけるマスメディア調査」と題された報告書は、日本語及び英語で関連する各部局に広く回覧された文書の一つであった。本研究計画の最終年度にあたる来年度は、このマスメディア調査報告書が米政府内部でどのように回覧され、解釈されたかに関する検証結果をもとに、各省庁及び機関の役割分担がどのような形であったのかを明らかにする予定である。 当初の計画では、アイゼンハワーの沖縄訪問時の広報資料を事例として分析する予定であったが、研究の過程で、このマスメディア調査報告書が広く回覧された文書であることがわかり、この調査報告書が回覧された過程を中心に分析を進めることにする。この文書の方が、各部署で様々に取り扱われた資料であることから、それぞれに別のカバーレターが添付されており、各所の役割分担と指示・連絡体系を明らかにするために利用可能な文書と考えられるからである。 来年度は、これらの研究成果を、前年度から執筆・修正を続けている論文にまとめた上で査読付きの学術雑誌に投稿することで公表を目指す。また、それを英語論文として書き直して英文学術雑誌での公表を合わせて目標とする。日米関係における研究成果は英語で公表することが重要であると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月に沖縄県公文書館及び沖縄県立図書館に資料調査を目的とした出張を予定していたが、新型コロナ感染症対策で施設が閉館となったため、出張を次年度に延期せざるを得なかった。沖縄県への出張旅費として使用予定だった分を次年度に使用し、研究計画を実施する予定である。
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