研究課題/領域番号 |
16K03526
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研究機関 | 山口県立大学 |
研究代表者 |
吉本 秀子 山口県立大学, 国際文化学部, 教授 (00316142)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アメリカ合衆国 / 沖縄 / 広報外交 / メディア / 大統領行政府 / アイゼンハワー / 情報政策 / 言論 |
研究実績の概要 |
本研究は米国の対沖縄情報政策の決定過程について、アイゼンハワー政権期(1953-1961)を中心とする米国側の公文書に基づき検証することを目的とする。アイゼンハワー政権期に連邦政府内部で役割分担が確立したと言える大統領行政府に焦点を当て、国家安全保証会議(NSC)およびその下部組織として位置付けられた作戦調整委員会(OCB)に、対日外交を主管したした国務省、沖縄統治政策を主管した国防総省、非公式な情報政策を主管した中央情報庁(CIA)、アイゼンハワー政権の肝煎りで設立された合衆国情報庁(USIA)などの関係省庁が、どのように対沖縄政策を調整・決定したのかを明らかにすることを目的としたものである。この実態を明らかにするためには、大統領行政府文書であるNSC文書、OCB文書の検討が必要であることは言うまでもないが、加えて、これらの組織にキーパーソンとして関係した政府職員の個人文書等の検討が必要である。本研究では、その中で、第二次世界大戦中から心理戦に関わり、アイゼンハワー政権期には大統領行政府の職員として対外情報政策の策定に携わったエドワード・リリーの個人文書の分析を併用しながら、米国の沖縄統治政策の全体像の中で位置付けてみることを目的として研究を進めている。その結果、これまでの先行研究で明らかにされてきた米国の沖縄統治における国務省と国防総省との対立関係が、特に対外情報政策に力点を置いたアイゼンハワー政権期の大統領行政府においては、対立ではなく、省庁間連携という協力関係として成立していく過程が明らかになった。米国が沖縄で施政権を含めて沖縄保有を継続する理由として、軍事担当の国防総省は「軍事的必要性(military necessity)」を主張していたが、メディア対策を含めて沖縄の住民を説得するために、情報政策および言論文化政策で両省は目的を同じくし、協力したのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は新型コロナ感染症の拡大で予定していた米国および沖縄県への調査および学会出張をどちらもキャンセルせざるを得なかった。そのため、2020年度に新たに収集する予定だった新資料を踏まえることは叶わなかった。しかしながら、2019年度までに収集した資料の再検討を行い、それまで踏まえることができなかった資料を詳しく読み込む作業を行なった。また、日本語で論文にまとめていたものを自分で英訳し、英語論文として公表するための準備を行なった。一次資料へのアクセスが限られていたので、その分、二次資料の検討を行い、隣接領域の理論研究を踏まえながら、本研究の位置付けを行うことを試みた。その上で、当初の目的であったアイゼンハワー政権期の大統領行政府における対沖縄情報政策の調整・決定過程についての知見が得られている。その意味で、研究計画は概ね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度も2020年度と同様にコロナによる影響で、海外調査出張はできない可能性があり、できる範囲で可能な形で研究を推進していかなければならないであろう。この状況を踏まえての対応策として、本年度は、これまで本研究の成果として公表してきた論文および学会発表の内容を一冊の学術書として公表することに向けての執筆作業を中心に行うことにする。 幸いにもインターネット経由で入手可能な海外における隣接領域の論文が出ている。米国の対沖縄情報政策という視点での文献は限られるが、本研究が分析対象とするアイゼンハワー政権期の他の地域への情報政策という視点では海外で興味深い新研究も発表されているので、このような研究成果をふまえて比較検討することで、逆に対沖縄情報政策との共通点および相違点が浮かび上がってくるであろう。このような海外研究動向の理論的枠組みの中で、本研究で扱う米国の沖縄政策を位置付ける作業を行う。これにより、本研究の成果を新たな冷戦研究の理論的枠組みの上で再検討し、そこから、戦後占領を起点として開始された米国の対日政策の特徴についての考察を行う。また、研究成果の英語での公表を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度を通して新型コロナ感染症の影響で出張予定先(米国立公文書館)が休館となり、再開の見込みがたたない状況が続いた。東京および沖縄県への出張も勤務先から自粛するようにとの通達があった。そのため、国外および県外出張に関わる経費を次年度に持ち越すことにした。 2021年度においても海外出張が実施できない場合には、その経費を書籍・雑誌等の購入と、本研究の成果報告書の作成および英語による成果公表のための経費にあてる予定である。
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