研究課題/領域番号 |
16K03546
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研究機関 | 立正大学 |
研究代表者 |
中村 勝克 立正大学, 経営学部, 教授 (00333998)
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研究分担者 |
中村 英樹 大阪市立大学, 大学院経済学研究科, 教授 (00272097)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生産工程の機械化 / 熟練労働と非熟練労働 / 労働と機会の代替・補完関係 |
研究実績の概要 |
昨年度に構築した生産工程モデルを,Acemoglu and Restrepoが開発しているモデル(Task based model)と比較可能な形に修正を行い,その上で,長期的に成長している経済において,2種類の労働者,すなわち熟練労働者(もしくは高度技術型労働者(skilled labor))と非熟練労働者(もしくは単純労働者(unskilled labor)),それぞれの労働者に関する所得分配率の変化を分析した.現在までに得られた分析結果は,およそ以下のとおりである. まず,一定の条件のもと,経済成長とともに高度技術型労働者(skilled labor)の所得分配率は安定してくるものの,単純労働者(unskilled labor)の分配率は限りなく縮小してくることが理論的に示せた.単純労働者(unskilled labor)の分配率が縮小する原因は,生産プロセスの機械化によって彼らの労働が代替されていってしまうことにある.このことは,最近観測されている一般的な労働分配率の低下について,その本質が労働者全般の賃金低下にあるのではなく,単純労働者(unskilled labor)というカテゴリーの中で生じる労働需要の低下にある点を示唆している. また,高度技術型労働者(skilled labor)と単純労働者(unskilled labor)の労働者増加率の相違が,以上のような2種類の労働者の非対称的変化を生み出す重大な要因の一つとなっていることも理論的に発見した.この点も,現時点で得られた分析上の成果といえる. なお,以前に構築したモデルでは経済の長期的な成長局面を描写する際に困難が生じたため,基本モデルを一部組み直している.結果,類似した問題意識を持つAcemoglu and Restrepoの研究と比較可能なものに改善された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度の目標の1つとして,「所得格差と教育水準の多様化および労働の分化」についてのモデル化をあげていたが,基本モデルのパートにおいて,分析を進める上でデメリットが見つかった.また同時に,類似した問題意識で開発が進められているAcemoglu and Restrepoの研究と比較するためにも,モデルに一定規模の修正が必要となってきた. そのため,平成29年度は,モデルの拡張を優先せずに,基本モデル(生産サイドのモデル)の再構築にある程度の時間を割くことにした. 結果的に,「所得格差と教育水準の多様化および労働の分化」のモデル化に遅れが生じており,かつ実証パートに関しても予定通り進捗しているとはいえない状況にある.以上から,「(3)やや遅れている。」が妥当と判断する.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成30年度は,平成29年度に再構築した基本モデルの理論的頑強生を丁寧にチェックし,その上で,「所得格差と教育水準の多様性」を分析するパートの追加を第1の目標とする. 時間的な制約を考慮すると,この部分に複雑なモデルを組み込むのは困難と予想される.そのため,可能な限り簡単な関数型の選択,もしくは部分均衡的なアプローチ(一部の変数を外生変数として分析を進めるアプローチ)の採用などを想定し,最終目標であるモデルの動学的特性(機械化に起因する格差などの動態)と教育・労働政策の影響を明らかにしていく. また,実証分析パートに関しては,理論分析パートの進捗状況にあわせることを前提にする.したがって,理論パートの進捗状況によっては,新しい実証モデルの分析を割愛し,既存研究のサーベイによって,このパートの目的の達成を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の所属の変更に伴い,研究分担者と定期的に行う研究打合わせの回数が予定よりも少なくなり,旅費としての支出が当初予算を下回ったのが主な理由である. 次年度は,最終年度ということもあり,研究分担者との研究打合せの頻度を高める予定.なお次年度の経費は,おおよそ,「旅費65%:人件費・謝金20%:その他15%」を計画している.
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