研究課題/領域番号 |
16K03552
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
佐藤 健治 神戸大学, 経済学研究科, 特命准教授 (60634227)
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研究分担者 |
天龍 洋平 九州国際大学, 現代ビジネス学部, 准教授 (00727042)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 経済成長 / イノベーション |
研究実績の概要 |
関連する研究について2本のワーキングペーパーを公開した。現在,投稿・改訂作業中である。 ■ Furukawa, Lai, Sato (2017, MPRA82566) では,前年度の成果を基礎に,より精密な実証分析を追加している。新しいプロセスの発明と,既存プロセスの改良という2つのタイプの技術進歩がある場合には,消費者の受容性が成長に重要な貢献を果たすことを,理論的・実証的に示している。この論文の実証パートでは,受容性が比較的高い国では,受容性と発明の数に有意な負の相関があることを示した。この結果は,各国のGDPや教育水準などの各種コントロール変数を追加しても統計的に有意であり,背後になんらかのメカニズムが隠れていることが推察される。理論パートにおいて,消費者の受容性を導入したモデルを構築し,受容性が高すぎる国では,改良発明に対するインセンティブが低く,イノベーションひいては経済成長を遅らせることがあることをしめした。 ■ Tenryu (2017, MPRA78706) では,品質改善を行う垂直的イノベーションと財の種類拡大を行う水平的イノベーションの両方を組み込んだ経済成長モデルを用い,資本課税や法人税が経済成長に与える影響について理論的に分析した。先行研究では資本課税は経済成長に負の影響があり,法人税は正の影響があることを示されていた。本研究では資本課税が経済成長に好ましい影響があるケースの存在を示し,ポリシー・ミックスに対する新たな検討材料を提供した。理論的には,垂直的イノベーション技術が収穫一定のケースでこのような逆転が起こる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「産業の多様性」という当初目的を狭義に捉えれば,研究の進捗はやや遅れていると言わざるを得ない。しかし,イノベーションの多様性は,産業の多様性によって支えられるものであることから,ここまでに得られた結果・知見は,当初研究計画に概ね沿った研究内容であり,得られた知見はマクロ経済モデルの視野を広げる重要な観点であると考えている。今後,得られた結果を応用・拡張し,狭義の多様性という観点をモデルに導入する。 公開したワーキングペーパーは,現在,研究会報告等を積極的に行っている。特に,Furukawa, Lai, Sato 論文は同分野・他分野から種々の批評・批判を得て,論文投稿および拡張に向けて順調に発展している。
以上の内容を総合的に判断して,おおむね順調に進展している,と考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでは「イノベーションの多様性」という点に注目し,広義の産業の多様性を扱ってきた。その中で,消費者サイドの特徴(受容性)の重要性や,ポリシー・ミックスに対する新しい知見を得ることができた。ここまでは,本研究計画の準備段階と考えている。今後は,産業構造に異質性を取り込んだモデルを検討する。 最終年度という時間的な制約もあるため,今後は,理論分析に限定せず,必要であれば数値計算,実証分析の可能性も視野に入れて,様々な角度から最適な制度について検討する。研究期間終了後の研究の発展を見据えて準備を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額の大部分は,本年度半ばに研究代表者の所属先変更が決定し,移転や事務作業の負担を軽減するために,購入予定であった物品の購入を遅らせることにしたことに起因する。2018年度の配分が済み次第,備品の購入にあてる。
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