研究実績の概要 |
本研究では,多様な産業で異なる特徴を持った技術革新が行われているということを考慮したマクロ経済モデルを構築,分析することを目標としている。研究代表者の佐藤は主に技術革新とマクロ経済のダイナミクスに関する理論分析を担当し,研究分担者の天龍は主に新技術の保護に関する研究を担当した。最終年度には次のような研究成果が得られた。 1. Furukawa, Lai and Sato (2019) "Novelty-seeking traits and applied research activities" が Applied Economics Letters 誌に掲載された。基礎研究と応用研究に切り分けたとき,新規性追究という個人に内在的な特徴が基礎研究の発展に貢献することを示した Goren (2017) の研究に対して,我々の研究では,新規性追究傾向が応用研究を阻害する可能性があることを確認した。新しいものを追求する傾向が既存の技術を洗練させるインセンティブを弱めてしまうことから生じる。(前年度の研究成果 Furukawa, Lai, Sato (2019, MPRA) に基づく) 2. Yano and Sato (2019) "Ergodic Chaos for Non-expansive Economic Models" が International Journal of Economic Theory 誌に掲載された。Matsuyama (1999) が示したイノベーション期と資本蓄積期が入れ替わりながら経済成長が起こる挙動を示すモデルの分析を拡張したもので,広いパラメータの範囲で複雑な振動現象が生じることを確認した。
研究期間を通して,技術革新を起こす様々な要因と経済成長の多種多様な様子について分析を行ってきた。新技術の保護に関しては, Tenryu (2017, International Review of Economics) では,資源の生産性の違いによって適切な保護の形態が異なることを示している。Furukawa, Lai and Sato (2019, APL) で実証的に確認されたことからも推察できるように,イノベーションの保護は産業ごと,国ごとにも適切な水準を見極めることが重要である。
|