研究課題/領域番号 |
16K03556
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
松本 昭夫 中央大学, 経済学部, 教授 (50149473)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 投資遅延 / 非線形加速後原理 / 安定性変換 / 消費遅延 / 貯蓄遅延 / 極限循環 / 多重安定性 |
研究実績の概要 |
Goodwin accelerator modelは投資に加速度原理を適用し、投資ラグを想定していることで知られている。数学的には中立的な遅延微分方程式である。論文刊行当時(1951年)にはこの遅延微分方程式を解析的に解く方法は知られておらず、Goodwin自身は均衡点において方程式を遅延パラメータで線形近似を行い、得られた2階の常方程式を解いて、景気循環の解としている。換言すれば、Goodwinは遅延がゼロの時の近似解を求めている。 今年度刊行された"Goodwin accelerator model revisited with fixed time delays," (online version, Jun,2017) では少なくとも二つの新たな知見を得た。(i) 正の遅延が投資だけに存在する場合には(一つの遅延)には遅延の長さの閾値が存在し、遅延がその閾値以下の場合には安定的な解が得られるが、閾値以上になると定常点が不安定化し、その周りを循環する解(limit cycle)が求められる。(ii) 遅延がさらに消費(あるいは貯蓄)にもある場合に近年得られた安定性転換の分析を応用することで、以下の動学を求めることができた。定常点が小域的に安定な場合には不安定な極限循環と安定な極限循環が共存するmulti-stability(多重安定性)が確かめられた。定常点が小域的に不安定な場合には、スムーズな極限循環かキンクのある極限循環が初期の関数の設定に依存して出現することが確かめられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
経済変数に存在する遅延の効果を (1) マクロ動学モデル(Goodwin, Ramsey, Keynes, Marxなどの経済成長モデル), (2) ミクロ動学モデル(クールノー型、ベルトラン型の寡占モデル), (3) 応用として非点源汚染に対する境政策分析など、様々な枠組みの中で考察している。 Ramsey モデルの分析は必ずしも予定通りには進展していない。数理的な分析で極限循環の存在をHopf分岐定理により証明することができたが、数値的にはそのぞんざいをまだ確かめられていない。数値アルゴリズムの改良や循環解を生み出すパラメータ集合の測度(ルベーグの意味で測度がゼロか否か)などを検証や、数学的な証明の再検討などをしている最中である。
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今後の研究の推進方策 |
現在研究協力者と以下の四つの成果を中央大学経済研究所のDPとして発刊し、さらなる推敲を行っている。(i) Delay Cournot duopoly model revisited, (2) Neoclassical growth model with multiple distributed delays, (3) Neoclassical growth model with two fixed delays," (4) "Heterogeneous agents of asset price with time delays. 今年度は主に遅延が二つの変数に存在する複数の遅延が動学にどのような影響を与えるかの分析を中心に研究を継続させる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費および物品費の購入を他の助成金が賄ったために予定外の差が生じた。今年度は当初の予定通りの予算を執行する。
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