本年度は国内外の学会等での研究発表及び学術雑誌への投稿準備を行った.しかし秋に報告予定の国内学会は台風の影響で中止され2020年春に米国で行われる予定の研究集会もコロナ感染流行を理由に中止,同年3月に所属大学で予定していた研究集会も同じ理由から中止された.このように実績を挙げるには十分ではなかったが全期間を通じて予想した以上の成果が得られたと考えている.我々は現行の医師臨床研修マッチングを前提に過疎地における医療機関への応募を促すことで地域医療サービスの維持向上を図る方策についての理論的な研究を行った.現行制度の主な趣旨は応募者の公平性を確保することにある.可能な限り医師の希望は満たされるべきであり,仮にそうでなければ,より優先度の高い応募者がすでに採用されている場合に限られるのが望ましい.このような状態を安定マッチングとよぶ.現行制度は安定マッチングの中で最も医師側に有利なものを実現する仕組みである.しかし安定マッチングにおいては応募者数が定員を下回るような研修機関も存在し,そのようなものは安定マッチングである限り常に同一であることが知られている.過疎地にある医療機関がそうであれば常に医師不足に陥る.そこで定員不足を生じる研修機関に補助や助成を与え応募者の増加を図る場合,現行制度で何が起きるかを理論的に分析した.研修機関の受入人数が1人であるような特殊ケース(ただし採用枠を1つの研修機関とみなせば特殊性は緩和される)において医師不足の研修機関に助成を行った結果応募者が増える際,参加する医師全員の厚生が以前と比べて悪化することがなければ助成の導入は正当化されるだろう.本研究は現行制度がその条件を確保しつつ安定マッチングを達成できること,同様の条件が医療機関側にも成り立つような制度は存在しないこと,医師側の厚生についての要請を用いて安定マッチングを特徴付けることにも成功した.
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