本研究の目的は、インターネット移動通信サービスを供給する「広帯域無線産業」に競争環境を導入するための制度・システムを設計し、制度の基盤について分析を加えることである。日本の同産業では、規模の経済と規制当局による電波の直接配分の結果生じた「暗黙協調下の寡占」状態が続き、消費者・ユーザの高負担・不便・不公平に加え、産業成長の減速を招いている。 本年度は、次年度から導入が予定されている「第5世代(5G)通信」の電波利用基盤において生ずる「自然独占問題」を検討した。 5Gにおける技術的特色からスモールセルの採用と、その結果としての重複設備投資の回避と同供給独占(自然独占)が不可避であり、競争推進のためには5Gサービスの上下分離が自然な対応策である。これにより、少なくとも「上部サービス」で競争環境を実現できる。問題は「下部基盤(インフラ)」の独占から生ずる弊害である。そのために、まず同上下分離を実施した場合に事業者に課すことが適切と考えられる規制内容を考察した。ただし、企業統合経営の利益を損じないよう、会社分割ではなく、「サービスの分離」のみを提案した。これに次いで、「地域分割」と同インフラ事業の「交代可能性(contestability)」による長期的な独占の弊害防止策を提案した。 これに関連し、基地局共有のための「タワー事業」が米国、中国他において近年普及している事実も、上下分離の先取りになっている。これらについても検討を加え、タワー事業やインフラ共用方策の無規制導入は、将来における地域独占とその弊害を招くことを指摘した。
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