研究課題/領域番号 |
16K03566
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
野口 光宣 名城大学, 経済学部, 教授 (00208331)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 協力ゲーム / ベイジアンゲーム / 不完全情報ゲーム / ノンアトミック / σ加法族 / 私的情報 / 非対称情報 |
研究実績の概要 |
当該年度の研究では、当初予定通り、プレーヤータイプを確率変数とみなして、状態空間上のσ加法族とプレーヤータイプを関連付けるという方法で、私的情報がσ加法族である場合のαコア戦略組の存在証明を完了した。ここでいう情報とは、有限状態空間における情報分割を、連続体状態空間に一般化したもので、各プレーヤーは、私的情報整合的な戦略のみを、状態が現実化する以前の事前期待利得を考慮して選ぶ。αコア戦略組とは、事前期待利得で厚生を測るとき、各プレーヤーの戦略の組の中で、事前結託の形成に対して安定となるもののことである。事前期待利得は有利な状態と不利な状態についての信念を反映したものなので、αコア戦略組は、リスク配分を決める契約の中で、事前結託の形成の起きない、安定したものだと言える。したがって、現実の様々な交渉場面への応用が期待できる。
αコア戦略組が存在するための主な十分条件は、(1)状態空間が可分完全な確率空間であること、(2)状態空間が非アトム的であること、そして、(3)私的情報が確率論的に独立であることである。本結果が有用であるためには、これらの存在条件が現実に照らして解釈可能なものでなければならない。(1)については、伊藤清の著書『確率論』に述べられていることで、通常の多くの確率モデルの前提となっているものである。(2)は私的情報が非常に高精度であることを意味し、また、(3)は私的情報が互いに相関性を持たないことを意味する。実際のプレーヤーである企業等は、各種調査を、多額の資金を投じて秘密裏に行う。また、IT技術の発展に伴って高精度の情報が得られるようになっている。これらのことを考えると、近似的に(2)と(3)が成り立つ現実的状況は多いように思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主な目的は、有限人プレーヤーが私的情報を持ち、私的情報整合的な戦略を選ぶゲームにおけるαコア戦略組の存在を、私的情報のσ加法族モデルの枠組みで証明することである。そのための基本的ツールはヤング・メジャーの純粋化定理であるが、Balder(2000)による既知の純粋化定理はそのままでは使えない。それを、異なったプレーヤーが異なったプレーヤータイプを持つ場合に、それぞれのプレーヤータイプを保存するような純粋化定理に改良する必要がある。そのためには、(1)Fubiniの多重積分定理の厳密な帰納法による証明と、それを用いた(2)ヤング・メジャー純粋化定理の多重積分バージョンが必要となる。これらについてはすべて当該年度内に証明を完了した。
また、当該年度研究計画で述べた、確率変数 t による、プレーヤータイプモデルとσ加法族モデルの関連付で求められる条件の解明についても成果を得た。基礎確率空間Ωが通常の確率モデルで求められる程度のもの(可分かつ完全)であれば、確率変数tにより、σ加法族モデルでのαコア戦略組とプレーヤータイプモデルでのαコア戦略組が対応付けられることが証明された。また、その結果、後者が存在することにより前者もまた存在するということが証明された。
上記の研究過程の中で、相手の信念についての不確実性、相手の自分の信念についての不確実性といった、無限の不確実性連鎖の中で行動するベイズ型のプレーヤーが、どの程度、私的情報のタイプモデルやσ加法族モデルに忠実に行動するのかを解明すべきだと考えるに至った。当初研究計画では直接触れられていなかったが、2人プレーヤーモデルを用いて、Mertens and Zamir(1985)の意味での、ユニバーサルタイプに依存しながら行動するベイズ型ゲームの例を作ることができた。この成果はすでに当該年度に発表済みである。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度は、当初の証明方針に従い、私的情報のHarsanyi(1967)プレーヤータイプモデルの枠組みで得られたNoguchi(2014)のαコア戦略存在に関する結果を、プレーヤータイプtが基礎確率空間Ωからタイプ集合Tへのランダム変数t:Ω→Tであることを用いて変換し、私的情報がσ加法族モデルである場合のαコア戦略の存在を証明した。この証明方法はいわば間接的なものであり、また、追加条件として、基礎確率空間Ωが可分かつ完全であることが求められた。しかし、これまでの研究を通じて、上記の条件があれば、プレーヤータイプモデルを介さなくとも、直接、私的情報がσ加法族モデルである場合の証明が可能だと確信するに至ったので、今後、この直接証明に挑戦してみたいと思う。
さらに、状態空間がノンアトミックなので、情報分割や情報集合と、条件付き確率によるベイズ更新の関係も解明する必要がある(有限状態空間の場合は自明)。また、本研究成果の有用性をアピールするために、αコア戦略の具体例を現実のマーケットや交渉問題に照らして作ってみたい。
本研究が対象とする協力解は、事前期待利得によって厚生を測り、事後的に行動の検証が可能だという仮定の下で、事前結託形成に対して安定的というものである。したがって、この協力解は、事前的に効率的で、私的情報に沿って履行される保険契約と同等であり、様々な応用が見込まれる。これらの観点から、αコア戦略の結託内情報共有がある場合の解の安定性について、例を用いて検証することが必要である。この部分は、平成29年度以降の研究計画で述べていたことの一部となる。当初、平成29年度以降の研究計画で述べていた各事項については、特に、私的情報を加味したワルラス均衡分布の存在に重点を置き、引き続き考察していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
副学長職並びに常勤理事職が多忙を極め、思うように国内学会参加ができなかった。翻訳ソフトやシミュレーション用ソフトについて、まだ適当なものが決まっておらず、次年度持ち越しになっている。3月購入分の洋書代等がクレジットカード会社の利用明細発行日のタイミングの関係で、次年度支出になってしまっている。
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次年度使用額の使用計画 |
設備備品費の明細(千円):経済学関連書籍代 100、プリンタ(キャノンSatera LBP7600C) 120 、ソフトウエア 100、パソコン関連・一般消耗品 60、計 380
旅費等の明細(千円):学会参加(日本経済学会、数理経済学会他)および国会図書館での調査研究のための出張旅費 120、国外学会参加(エコノメトリック・ソサイエティー、アジアミーティング、香港)400、英文校閲 200、計 720
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