前年度に引き続き①賃金交渉 ②提携交渉とインセンティブの2つの研究を並行して行った。 まず、生産に不可欠な資産を持つプリンシパル(企業)と2人のエージェント(労働者)との間の賃金交渉モデルに関する研究は、前年度までは、プレーヤーが均衡から逸脱したときの提携交渉を限定する仮定を用いていたが、その仮定を外して同じ命題を証明することができた。そして、European Meeting on Game Theory(SING13)とEuropean Meeting of the Econometric Society(ESEM)という2つの国際学会で研究報告を行った。European Meeting of the Econometric SocietyではCooperative Gamesというセッションでの報告が許可され、有益なコメントを得ることができた。 次に、上記の研究を単純化し、提携交渉の前に2人のエージェントが投資を行うモデルを構築し、個別交渉(逐次交渉)の可能性がインセンティブを高めるかを検証した。複数のエージェントが投資を行う場合(チーム生産)、フリーライダー問題が起こりインセンティブは低下する。本研究では、事後の利益分配の交渉において、エージェントに個別交渉を選択する権利を与えることによりインセンティブが改善するのかを理論的に明らかにしようとするものである。その結果、割引因子が十分大きい場合には誰が提案者になっても個別交渉を提案し、その結果インセンティブが改善すること、割引因子が小さい場合には全体提携(団体交渉)が常に存在し、インセンティブに影響がないことが分かった。また、割引因子が小さい場合と大きい場合には一方が団体交渉、他方が個別交渉を提案するような非対称な均衡は存在しないことを証明した。
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