前年度に引き続き、投資をした後3つの企業が提携交渉を行うときに、3社同時に提携交渉をする他に逐次交渉の選択肢がある場合に、事前の投資インセンティブは改善し不完備契約によるホールドアップ問題が解決するかどうかの研究を進めた。前年度までの研究では、事後的な提携交渉ゲームにおいて複数の均衡がある可能性があった。しかし、事前のインセンティブを分析する上では事後の提携交渉ゲームでの均衡が一意であることが望ましい。そこで今年度は、提携交渉ゲームにおいて複数均衡が生じる可能性を排除するために提携間の外部性がないものとし、分析を精緻化した。 主な結果は以下の通りである。割引因子が十分大きい場合には、均衡において逐次交渉が行われる。しかもこの均衡は一意である。投資の外部性がないもしく負の場合、投資のインセンティブは改善する。投資の外部性が正の場合でもFirst Moover Advantage(最初に交渉の提案者になったプレーヤーの利益)が投資の正の外部性より大きい場合には投資のインセンティブは改善する。割引因子が十分小さい場合には、全体提携がすぐに成立し、逐次交渉のオプションは投資のインセンティブに影響を与えることができない。割引因子が中間の場合、全員が投資をしている場合には全体提携がすぐに成立するが、投資をしていないプレーヤーが存在する場合には、投資をしなかったプレーヤーが携交渉の提案者の場合には全体提携を選び、投資をしたプレーヤーが提案者となる場合には逐次交渉を選ぶ非対称均衡が起こりうる。その結果、逐次交渉のオプションは投資をしないプレーヤーへの信憑性のある脅しとなりホールドアップ問題を解決できる。 上記の研究を20019年7月にフィンランド・トゥルクで行われたEuropean meeting on game theory (SING 15)において発表した。
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