研究課題/領域番号 |
16K03571
|
研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
佐藤 伸 福岡大学, 経済学部, 教授 (60458924)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 社会的選択 / 耐戦略性 |
研究実績の概要 |
平成29年度の研究実績は大きく二つに分けられる.いずれも社会的選択において虚偽の選好を表明するインセンティブを与えないような制度設計に関する結果であり,虚偽表明を防止するための制度の性質として標準的な「耐戦略性」とは異なる新しい基準を提示する可能性を探ったものである. 第一にRemzi Sanver氏とBora Erdamar氏との共同研究として「虚偽申告によって許容できない選択肢から許容可能な選択肢に社会的選択が変化するときのみ,虚偽申告する」という想定に基づいた分析を行った.その結果,不可能性定理と可能性定理の両方が得られたが,可能性定理の中で設計した社会的選択規則は十分に実用的なものである点で貴重である.それらは"Evaluationwise strategy-proofness"という論文として国際的な学術誌Games and Economic Behaviorに掲載された. 第二に,無藤望氏(横浜国立大学)との共同研究として,選択肢に関する順序のみを申告する標準的な枠組みにおいて「耐戦略性」をどこまで弱めればGibbard-Satterthwaiteの定理が示す不可能性から脱却できるのかを明らかにすることを目的に「bounded response」という「耐戦略性」よりも非常に弱い性質を定式化した.しかし,そこで示されたことは,この性質と効率性を満たすものは独裁制しかない,というものであった.したがって,「耐戦略性」をこの方向に弱めることによって不可能性から脱却することはほとんど不可能であることを明らかにした.この結果は"An impossibility under bounded response of social choice functions"という論文としてGames and Economic Behaviorに掲載された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「虚偽申告によって許容できない選択肢から許容可能な選択肢に社会的選択が変化するときのみ,虚偽申告する」という想定に基づく分析と,標準的な枠組みにおいて耐戦略性を弱めた性質の分析をそれぞれ論文としてまとめ,査読者等のコメントに対応して改善しながら,ともに国際的な学術誌であるGames and Economic Behaviorへ掲載された点で,おおむね順調に進展していると考える.
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度に得られた成果をさらに発展させる方向で研究を進めたい.具体的には「虚偽申告によって許容できない選択肢から許容可能な選択肢に社会的選択が変化するときのみ,虚偽申告する」という想定を他のモデルに適用した場合の分析と,標準的な枠組みにおいて「耐戦略性」よりも弱い虚偽申告を防止する基準を提示することの可能性を理論的に探る.
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として主に二つ挙げられる.第一に,論文の執筆や改訂の際に一度に多くの情報をPCディスプレイに表示できると,TeXファイル,その出力結果のPDF,査読者からのコメント,関連するほかの論文等を画面の切り替えをせずに見ることができ,効率的に作業できるので,現在のものよりも大画面,高精細なPCディスプレイ2台の購入を予定していたが,導入を予定していたディスプレイの発売が2度にわたり延期となり29年度の納入期限内に購入することができなかった.第二に,年度末に予定してた研究集会への参加が他の業務と重なりできなくなり,その使用分として想定していた旅費が未使用となった.
使用計画として,まず29年度に導入できなかったPCディスプレイを導入し,また研究集会へ積極的に参加する.
|