研究実績の概要 |
令和元年度は,本研究課題における成果の一環であるRemzi Sanver氏とBora Erdamar氏との共著論文"Evaluationwise strategy-proofnes" (Games and Economic Behavior, 2017)における分析をさらに進めた.具体的には,2017年の論文で想定されていた「虚偽申告によって許容できない選択肢から許容可能な選択肢に社会的選択が変化するときのみ,虚偽申告する」という想定を維持しながらも,社会的選択を行う制度として社会的選択関数(常に1つの選択対象を選ぶ)ではなく,社会的選択対応(選ぶ選択対象の数は任意)を考えた場合に,虚偽申告のインセンティブを与えない制度設計の可能性を考えた.その結果,前年度までに分かっていたことに加えて,いくつかの新しい結果を得ることができた.
具体的には,前年度までで「ある条件」の下で「完璧な」制度は存在しないことが分かっていた.その「ある条件」とは「社会の構成員の数が4の倍数である」という妙なものであり,これが「完璧な」制度の設計不可能性にとって不可欠な条件なのか否かが分かっていなかった.それが,令和元年度の研究の進展によって,その一見して奇妙に見える条件が不可能性にとって必須であることを示すことができた.すなわち,「社会の構成員の数が4の倍数」ではない場合には,選択対象の数によっては不可能性が崩れる,すなわち望ましい制度を設計できることを明らかにできた.前年度までで,「完璧な」制度設計ができない場合でも,かなり実用的な「良い」制度が虚偽申告のインセンティブを与えないことが分かっており,申請者とその共同研究者が提唱した新しい虚偽申告防止性能を満たす制度設計に関して不可能性と可能性の双方が満足できる形で揃った.
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