研究課題/領域番号 |
16K03572
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
守 健二 東北大学, 経済学研究科, 教授 (20220006)
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研究分担者 |
玉岡 敦 東北大学, 経済学研究科, 博士研究員 (10712268) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マルクス / 恐慌 / 景気循環 / MEGA / トラヴァース |
研究実績の概要 |
本課題は、研究目的を達成するために,次の4つの方法を採用している。1.新公開草稿におけるマルクス景気循環・恐慌観の発掘・評価、2.「過剰投資・過剰資本化説」の再検討、3.モデル分析による理論比較、4.学会報告,専門誌投稿,書籍出版等によるアウトプット。 まず1について、平成28年度は、マルクスの新公開草稿「Books of Crisis」(1857-58)の理論的意義を評価する作業の一環として、(1)大英図書館においてその典拠文書のさらなる同定を行い、(2)その成果をベルリン・ブランデンブルク科学アカデミーにおいて協議し、(3)2017年出版予定の『マルクス・エンゲルス全集(MEGA)』第IV/14巻に反映させ、その完成度をさらに高めることができた。また(4)『資本論』第二部第2稿の6部門モデル(1868年)を「Books of Crisis」の理論的発展として位置づけて再評価を行い、中国・吉林大学における招待講演において発表した。 2については、Hicksを中心とする新オーストリア学派のトラヴァース理論の枠組みで景気循環を説明するアプローチに注目し、BellocやNardiniらの一連の論考を検討した。 3については、上記2の新オーストリア理論の新展開を踏まえて景気循環モデルを構築していく過程において、期間分析にフーリエ変換、ラプラス変換などの分析手法を用いる必要が生じ、また恐慌現象を説明する際には諸変数を不連続関数として扱う必要が生じたため、ルベーグ積分、超関数論などの数学的スキルの習得に努めた。そのためにZemanian, Misra & Lavoine, Widderなどの工学系大学院レベルの数学書の読解を行った。 4については、1の成果を中国・吉林大学における招待講演において発表した。また関連する線形代数的手法について国際的専門誌に論文を公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
進捗がやや遅れている理由の第一は、研究分担者が海外の大学へ転出して科研費応募資格を喪失したため、研究組織が研究代表者一人になったことに関連する。研究分担者の削除によって研究計画の遂行に最終的に支障がないと判断しているが、当初の役割分担をすべて研究代表者が担うことによる経過的な過剰負担は避けがたかった。 第二の理由は、「研究実績の概要」で述べたように、新オーストリア理論の枠組みに基づいて恐慌・景気循環モデルを構築し比較検討するためには、不連続変数を扱うことが不可避であることが判明し、その分析には伝統的なリーマン積分の範囲を超え、ルベーグ積分や超関数の導入が必要となった。さらに期間プロファイルを考慮しトラヴァースを分析するためにはフーリエ変換、ラプラス変換の手法を用いる必要性が生じた。こうした数学理論を新たに習得するために、工学系大学院レベルの複数の数学書の読解を行い、ほぼその目的だけのために約4か月分のエフォートを費やさざるを得なかった。正確な理解が要求される分野だけに、やむを得ないエフォート量である。その結果、他の課題に関する研究の進捗に遅れが生じ、その成果に関する論文作成や学会発表を十分に行うことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度はそれぞれの課題について、前年度の進捗の遅れを挽回すべく、次のように研究を進める。 1.新公開草稿におけるマルクス景気循環・恐慌観の発掘・評価:マルクスにおける「Books of Crisis」の理論的発展の過程をさらに深く解明し、その成果を欧州経済学史学会(ESHET)のアントワープ大会、リヨンおよび東京での国際コンファレンスにおいて発表する。発表および討論の成果を踏まえて投稿論文の作成を進める。 2.「過剰投資・過剰資本化説」の再検討:Hicksを中心とする新オーストリア理論の枠組みを使って、Ricardo機械論からHayek景気循環論へ至る系譜を再構成し、その中に中期マルクス「Books of Crisis」におけるDouble Crisis構想を位置づけることを試みたい。 3.モデル分析による理論比較:前年度に習得したルベーク積分、超関数理論、フーリエ変換、ラプラス変換の分析手法の理解を踏まえ、新オーストリア学派トラヴァース理論の最前線にあるNardiniの諸論考をさらに発展させることを試みたい。 4.学会報告,専門誌投稿,書籍出版等によるアウトプット:以上の研究の成果を問うべく,(1)上記ESHETの5月のアントワープ大会にエントリーした。(2)9月にリヨンで開催される『資本論』出版150周年記念の国際コンファレンスにScientific Committeeのメンバーとして参加し、研究報告を行う。(3)同様の主旨で経済理論学会、学史学会等の国内関連学会が共催する国際コンファレンス(9月、東京)に講演依頼を受け、上記研究の成果を報告することが決まっている。(4)併せて、国際専門誌への単著投稿論文の執筆を進めるとともに、マルクス恐慌理論に関する現在計画中の英文編著について雑誌特集という形で刊行できるよう各方面との調整を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由の第一は、研究分担者が海外の大学へ転出し科研費応募資格を喪失したため、研究組織が研究代表者一人になったことに関連する。この転出によって研究計画の遂行に最終的に支障はないと判断しているが、当初の役割分担をすべて研究代表者が担うことによる経過的な過剰負担は避け難かった。それに伴い、当該事業部分の経費執行に遅れが生じた。 第二の理由は、恐慌・景気循環モデルを構築し比較検討するに当たり、ルベーグ積分、超関数、フーリエ変換、ラプラス変換等の手法を用いる必要性が生じたことによる。こうした数学理論を新たに習得するために、工学系大学院レベルの複数の数学書の読解を行い、ほぼその目的だけのために約4か月分のエフォートを費やさざるを得なかった。正確な理解が要求される分野だけに、やむを得ないエフォート量である。その結果、他の課題に関する研究に遅れが生じ、国際学会での報告の回数が減少し、旅費の執行に遅れが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
H29年度は前年度の進捗状況を踏まえてそれを補うべく、前年度参加できなかった国際学会を含めて、当初の年度計画を超える3回の国際会議での報告を計画し、それに伴う旅費の執行を計画している。すなわち1. 上記ESHETの5月のアントワープ大会にエントリーした。2. 9月にリヨンで開催際される『資本論』出版150周年記念の国際コンファレンスにScientific Committeeのメンバーとして参加し、研究報告を行う。3. 同様の主旨で経済理論学会、学史学会等の国内関連学会が共催する国際コンファレンス(9月、東京)に講演依頼を受け、上記研究の成果を報告することが決まっている。
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