(1)マルクスの新公開草稿の評価:①マルクスの未公開草稿Books of Crisis(1857/58)の編集、作成過程の解明、理論的内容(とりわけ「ダブル・クライシスdouble crisis」構想)の学説史的位置づけに関して考察をさらに深め、その集大成として『マルクス・エンゲルス全集(MEGA)』第IV/14巻を2017年5月に出版した。これがマルクスの未公開草稿の世界初公刊として海外で新聞報道や書評が掲載されるなど国際的な反響を呼んだ。②『資本論』第二部第2稿の6部門生産モデル(1868年)は、比較静学のみならず均衡間の移行過程(トラヴァース)に関する動学的考察を目指しており、中期のBooks of Crisis以降、後期の『資本論』草稿に至るまで、ショックの結果起こる古い均衡から新しい均衡への移行という、中短期的ダイナミクスにマルクスが多大な理論的関心を持ち続けていたことを世界で初めて明らかにした。 (2)学説史の再検討:①「過剰投資・過剰資本化説」に属する諸説を検討し、それらの系譜の中に中期マルクスの「double crisis」構想を位置づけた。②マルクスのBooks of Crisisないし「double crisis」構想は、直接的にはTookeらの『物価史』、間接的にはHornerらの『工場監督官報告書』の影響のもとに成立したものであること、また上記の構想の理論的源泉はRicardo『経済学及び課税の原理』の機械論に遡及できることを世界で初めて明らかにした。 (3)モデル分析:Hicks『資本と時間』における投入-産出モデルを用いて「後期偏奇型forward-biased」技術変化のシミュレーションを行い、「double crisis」構想に見られるマルクスによる1857年恐慌の分析を合理的に再構成するためには、このモデルが有効であることを示した。
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