研究課題/領域番号 |
16K03573
|
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
松野尾 裕 愛媛大学, 教育学部, 教授 (30239058)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 賀川豊彦 / 協同組合 / 神代柏林 / キリスト教村 / 宮澤賢治 |
研究実績の概要 |
本研究は、近代日本における相互扶助の思想と、そこから具体的に構想された生活のための社会運動や事業活動に着目し、それらの歴史的経験が現代の思想状況の形成にいかに寄与しているかを解明することを目的として、平成28年度より5ヶ年計画で進めているものである。第2年度の平成29年度は、まず、上記の相互扶助思想やそれに基づく社会運動・事業活動の具体化に大きな影響を持った賀川豊彦(1888-1960)の生活協同論を整理する作業を行った。その成果は、平成30年度中に賀川豊彦記念松沢資料館の監修により『希望の経済-賀川豊彦生活協同論集』として公刊することとしている。次に、フィールドワークとして、秋田県仙北郡神代村柏林集落(現・仙北市田沢湖神代)に形成された「キリスト教村」(キリスト教信仰に基づく共同体)について、文献調査・資料収集及び現地における聞き取り調査を行った。ここは、賀川豊彦の農民福音運動に感化された人物をリーダーにして戦後満州からの引き揚げ者たちにより開拓されたところで、現在も住民のほぼ全員がキリスト教信仰を守っている地域である。この調査については、今後論文にまとめ、公表する予定である。また、第1年度の研究成果を踏まえ、賀川豊彦の農民福音運動に基づいて昭和初期に展開した岩手県の「三愛塾」の活動と宮澤賢治(1896-1933)の協同組合構想(作品「ポラーノの広場」)との繋がりを指摘した論文を公表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本における相互扶助の経済思想及び協同組合に関する文献・資料の読解・分析では、平成28年度に集中的に収集した岩手県を中心とする昭和前期の東北地方に関する文献・資料について精力的に取り組むことが出来た。そのなかで、従来、その思想的親近性が指摘されていた宮澤賢治の協同組合構想と賀川豊彦の協同組合構想との繋がりについて、岩手県の花巻教会、一関教会及び宮城県の塩釜教会に関わる人たちの密度の濃い交流のなかに位置付けて把握することが可能であることを、資料的裏付けをもってほぼ論証できることを明らかにした。このことについては、さしあたりまず、論文「賀川豊彦と宮澤賢治―新しい人づくり・新しい村づくり―」(『愛媛経済論集』37/1、p.69-95)で発表した。この見解については十分に論証できていない部分もあるので、今後さらに補強を加えていくこととしている。また、フィールドワークでは、岩手県摺沢地区の農村更生運動に関する現地調査から得た情報に基づいて、秋田県田沢湖地区の農村調査を行った。戦後開拓期に入植が進んだ旧神代村柏林に住民全員がキリスト教信者であるという現代の日本においてはきわめて珍しい地区があり、現地で聞き取り調査を行った。ここでは戦前期に賀川豊彦の薫陶を受けて相互扶助思想にもとづく農村建設を目指した人物の働きがあったことがわかり、それに関する資料・文献等を収集した。この秋田県柏林地区でのフィールドワークの成果については、まだまとめられていないが、平成30年度中に口頭発表を行い、その後に論文化する計画で資料の読解、考察を進めた。以上のことから、現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度の研究の遂行状況はほぼ計画通りに進んでいるので、平成30年度も引き続き、当初の年度計画通り推進する。日本における相互扶助の経済思想及び協同組合に関する文献・資料の読解・分析を継続するとともに、関連する新たな文献・資料の収集にも取り組む。その際、これまでに収集した記録・文献・資料等を総合的に検討し、今後に遂行する研究の焦点の絞り込みに取り掛かる。フィールドワークは、賀川豊彦がとくに熱心にかかわった地域である愛知県豊橋地区及び奥三河地区を選定し、平成30年5月に実施する。これまでの研究の遂行状況、研究成果の論文化についてはほぼ当初の計画通りに進んでいるので、今後も研究の進捗が当初の計画から大きく外れることはないと判断している。予想外の事態として考えられ得ることは、文献収集やフィールドワークの過程において予想を超える量の資料や事例が見出されるようなことであるが、その場合には、研究年度内で扱い得る範囲内に資料・事例を絞り込むことにより対応する。また、研究成果については、口頭発表を行い、専門的な論文としてまとめることはもとより、それにとどまらずに、広く市民に向けて社会還元することを試みる予定である。平成30年度は、7月に書籍として『希望の経済―賀川豊彦生活協同論集』松野尾裕編、緑陰書房を刊行する計画で、準備を進めている。また31年1月に、愛媛県生涯学習センター主催の市民講座において、「オルタナティブの経済―生活協同の構想が拓いた道―」を開講することとしている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 資料・文献蒐集に用いる予算に残額が生じた。 (使用計画) 資料・文献蒐集を適切に進めるとともに、現地調査及び学会等参加に使用する。
|