本年度は、資本主義の不安定性の研究のうち、特に金融不安定性と実体経済の動態との関連についての研究を行った。 研究報告としてA New Formulation of Bank Capital and the Possibilities of Crisis: from the Perspective of Marxian Economic Theoryがある。完全な信用経済下において、銀行は、企業が発行する様々な返済期間の債権を受け入れ、銀行はそれと引き替えに信用貨幣を創造する。銀行は返済期間終了後の債権をもとに返済請求を行い、元本と利子を取得する。銀行は信用貨幣と債権との間を姿態変換しながら利子を取得することで価値増殖を行う運動体として定式化されている。特に銀行行動の定式化で特徴的な点は、銀行の貸出について返済までの期間が存在し、さらにその期間が貸出のタイミングによって長短にバラツキがある点である。これは回収の困難さや容易さが貸出期間の長短に反映されているためである。このような定式化はこれまでに類例がなかったという点で特徴的である。モデル全体としては、利子率の高騰が銀行の貸出行動を誘発するとともに、企業の借入行動さらには資本蓄積行動を抑制する結果、利子率の均衡をもたらすことが示されている。銀行は、優良な貸出機会が利用可能になると貸出行動が旺盛となる結果利子率が下落し、逆に貸出機会が見つけられなくなると貸出行動が抑制され、利子率が高騰する。モデルでは、この貸出行動の拡張/収縮の反復によって資本主義では景気循環を引き起こされる可能性が提示された。 なお筆者が第1,2章を担当した『資本主義がわかる経済学』が大月書店から出版された。
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