研究課題/領域番号 |
16K03577
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
若森 みどり 大阪市立大学, 大学院経済学研究科, 教授 (20347264)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | カール・ポランニー / シュンペーター / ハイエク / ケインズ / デール / 債務国家 / ニュー・リベラリズム / ネオ・リベラリズム |
研究実績の概要 |
平成28年度は、第一に、モンペルラン協会設立前後以降から現代にかけてのネオ・リベラリズムの変遷・動向についての文献をはじめとして資料を収集し、①経済と民主主義、②保護主義・社会の自己防衛・ポピュリズム、資本主義における私的領域と公的領域の確執(財政、金融、労働、土地の領域=ポランニー的には擬制商品の領域)にあらわれる、といった諸論点について、考察を行った。考察は主として、ポランニーの論敵でもあったハイエクとシュンペーター、そしてニュー・リベラリズムの立場はある程度共有するケインズといった同時代人の対照する舞台設定を行った論文(草稿)を執筆し、学会で報告した。論文(草稿)は、本研究の核心部分を構成しており、引き続き加筆・修正・さらなる発展を継続していかねばならない、と認識している。 第二に、2010年にポランニーに関する優れた思想史研究の成果を単著として著したG.デールが、その後、5年間にわたって行ったポランニーに関する初の本格的伝記やハンガリー時代の論文集、そしてポランニー的思考の再構成の著書が、2016年に同時刊行された。デールによる著作は、国際的なポランニー研究を飛躍的に推し進めているが、デールの扱っているテーマは、経済思想の全体像との関連において、今もなおポランニー研究の未開拓領域となっている「国際経済秩序と平和」の問題について、ユダヤ系ハンガリー人として二度の亡命を含む三度の移住を経験したカール・ポランニーをとりまいていた、人的ネットワークの思想史的解明という方法から、試みている。デールを吸収するための論文執筆と、翻訳作業に着手した。この課題は、平成29年度以降も継続する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の春から夏にかけて、ネオ・リベラリズム関連の文献、新しいポランニー関連資料の入手、それらの解読、草稿の執筆を行った。秋には草稿をほぼ完成させ、ケインズ学会で報告(12月4日)し、2本の論文を執筆するなど、デールによるポランニー研究の2016年の新展開という事態に対応しながら、本研究を研究計画に沿っておおむね順調に進めることができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
ポランニーが主著『大転換』で扱った諸問題――第一次世界大戦後のヴェルサイユ体制とそれが内包していた通貨安定政策(表裏一体としての緊縮財政、国民生活の不安、失業、貧困)と債務問題(表裏一体として、過剰なる債権・資本の行き先の結果として金融市場の投機化)、政治不信、ファシズム、紛争、戦争――の現代的重要性高まっている。このことは、20世紀後半から現代にかけてのネオ・リベラリズムと「債務国家」の関連という角度からEUの複合危機の本質として分析した、シュトレークによる『時間かせぎの資本主義』(ポランニー、ハイエク、ケインズの国際秩序構想を扱っていることが、現代の複合危機の分析に鋭さと深さを与えている)においても顕著である。今後、経済思想史の方法によってポランニー研究をさらに深化させ、国際経済秩序と平和の問題を思考する枠組みを追究する必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
新資料や文献の調査・入手・解読、および論文執筆に資金と時間を使うことになった。また、平成28年度については、研究の企画や打ち合わせなどに、会合を持たず、主として、メールでやりとりを中心に行った。また、論文の翻訳を行うなど、支出の変更が必要となった。
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次年度使用額の使用計画 |
論文の翻訳、ポランニー関連データーベースの構築(謝金)
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備考 |
ブルネル大学で政治核・国際関係を専攻しているデール氏による、2016年6月に出版されたカール・ポランニーについての初の伝記的著作を翻訳するための版権を取得し、翻訳作業を進めている。
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