研究課題/領域番号 |
16K03580
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
石田 教子 日本大学, 経済学部, 准教授 (90409144)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 人類学 / 生物学 / 文化相対主義 / 人種 / 本能 / 習慣 / 経済学方法論争 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、顕示的消費(見せびらかしや見栄の消費)や製作本能(モノ作りの動機)に着目した経済学者ヴェブレンの経済学方法論の起源を、従来研究のようにダーウィンの生物学だけに求めるのではなく、人類学や優生学などを含めた広義の進化論にまで範囲を広げて考察することである。この目的を達成するために、平成28年度は、ヴェブレンが実際に強く影響を受けたと考えられる隣接分野諸家の文献の読解を行った。
ヴェブレンに対する人類学からの影響については、小論「ヴェブレンの人類学的知見に関するノート」として発表した(平成29年1月発行)。ここでは、彼が実際に行った参照や引用を辿りながら、(1)文化人類学、(2)自然人類学および(3)社会心理学ないし動物行動学という3つの分野について、彼の思想の形成に関わる影響およびその意義を探った。(1)については、通常はE. タイラーなどとの関係に焦点があてられてきたが、本論が強調したのはF. ボアズら、新世代のアメリカ文化人類学者たちからの影響である。(2)については、特にフランスの医学者たちからの影響が予想以上に大きかったことを指摘するとともに、優生思想との関係、人種観についても言及した。(3)に関しては、習慣や本能というヴェブレンの文明史理解にとって重要な諸概念が19世紀後半の生物学や動物行動学と関係している可能性を示唆した。
また、3月上旬(3/8-13)には、平成29年度に予定していた資料収集旅行を前倒しで実施することができた。アメリカのミネソタ州のカールトン・カレッジの Laurence McKinley Gould Library には、1990年代以降に整理された稀少資料がThorstein Veblen Collectionとして所蔵されている。ここのアーカイブスを訪問し、晩年の別荘の蔵書リストを含む諸資料について検討することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
アメリカのミネソタ州のカールトン・カレッジの図書館訪問および資料収集旅行は、当初、平成29年度に実施する予定であったが、同図書館の担当アーキビストとの交渉が予想以上に早く進み、前年の年度末を利用して前倒しで実施することができた(研究費使用の申請処理自体は平成29年4月となる)。それにより、同アーカイブス所蔵資料の検討成果から、ヴェブレンに対する人類学からの影響を大きさを改めて実感するとともに、今後の作業計画についても具体的な微調整を加えることできた。
ただし、平成28年度に予定していた既発表論文の翻訳作業については多少遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、3つの課題に取り組む予定である。ただし、平成29年度に予定していた経済学史学会第82回全国大会へのエントリーは見送ることにした。理由は、同大会開催年度である平成30年4月から、所属機関の海外派遣研究員制度を利用して渡米することが決定したからである。
(1)ヴェブレンの人間本性論の意義を問い直すことを目的とした論稿「『経済人』という人間本性概念を乗り越える:ヴェブレンの経済学リハビリテーション・プラン」(仮題)を、論文として発表する。本論稿は、共同研究者との共著書籍として平成29年秋に出版される予定である。 (2)ヴェブレンの新古典派「経済人」概念批判の意義を再考することを目的とした考察 "Methodological Implications of Thorstein Veblen’s Theory of Human Nature: Why should We Modify a Concept of ‘Economic Man’" (仮題)を、国際学会(History of Economic Thought Society of Australia Conference 2017)において発表する。同学会は9月末にオーストラリア国立大学において開催される。 (3)既発表論文「ヴェブレンの進化論的経済学における目的論の位置」および「ヴェブレンの進化論的経済学における機械論の位置」の翻訳作業を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
特に英文校正費は、既発表論文の英文翻訳の作業が遅れていることもあり、当初の予定より少なくて済んだ。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越し分については、引き続き、英文化の作業などのために充当していく予定である。
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