研究課題/領域番号 |
16K03580
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
石田 教子 日本大学, 経済学部, 准教授 (90409144)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 第一次世界大戦 / レッセ・フェール / 帝国主義 / 自由貿易 / 協同 / 平和連盟 / 国際連盟 / 独占 |
研究実績の概要 |
本研究は、ヴェブレンによる人間本性モデルの再考が、記述の方法論のみならず、時論的考察という二つの視角を有しているという立場から、その経済学方法論の論理を解明することを目的としていた。本年度は次の3つの課題を進めた。 (1)ヴェブレンの人間本性モデルの再考は、本能と習慣という概念装置を用いた人間本性に関する生物学的および人類学的再定義であったと特徴づけられる。彼は、それにより経済学に社会制度という質的要因を取り込もうとしたのであった。この点に関して執筆した論文「『経済人』という人間本性概念を乗り越える:ヴェブレンの経済学リハビリテーション・プラン」は、経済学方法論を主題とする共著の一章として出版された。 (2)当初から予定していたCarleton College Archives(CCA)の訪問を実現することができた。特に、CCAが保有するWashington Islandの蔵書リストおよび現物は、ヴェブレンの経済学方法論の形成過程を解明する上で重要な示唆を与えてくれた。 (3)時論的考察に関しては、平成30年度は大きな一歩を踏み出すことができた。生物学および人類学に由来するヴェブレンの人間本性観および文明史観は、文化相対主義的ないし反西洋中心主義的な視角を含んでいる。この事実自体は広く知られた解釈である。しかし、本年度の研究により、その視座は、単に記述の方法論にとどまるものではなく、第一次世界大戦(大戦争)前後の考察においては、その帝国主義批判、平和連盟構想、国際貿易政策論の基礎となっていることが明らかとなった。この点に関して執筆した論文 “Veblen on Principles of Free Trade” は、2019年6月20-23日に開催されるアメリカの経済学史学会(History of Economics Society)において報告される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定であった邦文既発表論文の英文化、19-20世紀転換期アメリカ、特にシカゴ大学のヴェブレンの同僚、および周辺思想家の人類学関連の出版物や講義の理論的特徴の把握はあまり進められていない。 とはいえ、平成30年度は、1890年代から1925年までの間、ヴェブレンが夏季に利用した別荘の蔵書Washington Island Libraryの調査を時間をかけて行うことができた。この調査により、同時代の諸思想が彼にどのような影響を与えたのかについて、アクチュアルな証拠を得ることができた。これは、後者の課題の前提となる作業である点では貴重な機会であったと評価できる。 また、ヴェブレンの人間本性論に関するこれまでの考察をもとにして、時論的考察にまで踏み込むことができたのは大きな前進であった。これにより、前期の経済学方法論における議論と、後期の経済政策論との間を架橋するための手がかりを得ることができた。 最後に、当初は、最終的に研究を取りまとめの段階で行う予定であった英語圏における研究報告の回数を2回に増やす見通しがたった。学術的交流を進めながら、論旨や論理展開をさらに明確にしたい。 以上のことから、平成30年度の研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度に行う具体的な研究課題は次の3つである。 (1)ヴェブレンの人間本性論の再考の論理構造に関する論文(初出は平成29年度のオーストラリア経済学史学会での報告)を学術雑誌へ投稿する。大方の作業は終わっているが、改訂にいましばらく時間がかかる。 (2)ミネソタ州ノースフィールドに再訪しアーカイブスでの調査を再開する。具体的には、Thorstein Veblen Collectionに所収されたWashington Island Libraryに関する文献調査、書簡類に関する調査およびトランスクリプト作業、Norwegian American Historical Association(NAHA)における19世紀末におけるノルウェー系アメリカ人に関する研究資料の収集、Northfield Public Libraryにおいて地元紙の記事の収集を行う。 (3)ヴェブレンの帝国主義批判、平和連盟構想、国際貿易政策論に関する時論的考察について、アメリカの経済学史学会(History of Economics Society)において報告を行い、そこでの学術的交流を手がかりにして、論文として加筆修正および雑誌投稿を目指す。
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