本研究課題の目的は、端的に言えば、T. B. ヴェブレンの経済学方法論を従来よりも広い学際的視野から考察することであった。主な検討領域は、彼の経済思想における人間本性モデルであり、「記述の方法論」および「時論的考察」という二つのレベルから論理の整理を試みた。最終年度は後者の「時論的考察」に焦点をあてながら、国内外において、本研究課題のこれまでの成果を発表することに専心した。 一般に、ヴェブレンは、政策提言を行うことに無関心であったと考えられてきた。しかしながら、彼は、史上初の世界大戦という危機的状況においてはその禁を解き、恒久的平和をもたらすとともに、それを維持するための経済政策(対外貿易のコントロールに関する)を構想することとなった。それは、W. ウィルソン大統領が設置した調査委員会宛に執筆された二つの覚書にまとめられている。調査委員会は、いわゆる「十四カ条の平和原則」を起草し、国際連盟の理念的原型を提示した組織である。実質的なリーダーであった著名なジャーナリストW. リップマン、スタンフォード大学時代の同僚であり友人であったA. ヤング(第一次世界大戦後の講和条約の締結時におけるアメリカ代表の一人)との交流も、彼の構想を読み解くためのヒントとなることが分かってきた。 この時期のヴェブレンの「時論的考察」の中核をなすのは平和論であるが、本研究において明らかになったのは、この理論が三つの構造をもっているということである。つまり、ヴェブレンは(1)Pacifistとして恒久平和と実現および維持するために、(2)Anti-imperialistとして途上国の搾取を終わらせ、それらの諸国民の富と福祉を保守するために、(3)Critic of Capitalistic Sabotageとして先進諸国の一般の人々の生活状況の悪化を回避するために、平和連盟を構想した、ということである。
|