研究課題
平成28年度は国内外での文献調査に加え、バーミンガム(7.26)と仙台(東北大学・5.21)で学会発表を2件おこなった。また英国のマーティノゥ・ソサエティの有志による出版企画に参加し、本研究課題に関するジョン・ヴィント名誉教授との共著論文をRoutledge出版から8月に刊行した。また本研究課題の目的の一つでもある、マーティノゥを中心に19世紀~20世紀の勤労思想を分析する研究会を「近代勤労思想研究会」と名付けて設立し、第1回の研究会を2017年1月に武蔵大学でおこなった。本年度の業績の中で、最重要だと考えられるものは、14名のハリエット・マーティノゥの研究者が自分の研究分野から論文を寄せた本著であり、日本、英国、米国の研究者と、経済学、社会学、文学、教育学、ジェンダー、歴史などジャンルを超えたコラボレーションともいえる出版は稀有のものである。本著のタイトルが示すように(「Harriet Martineau and the Birth of Disciplines-Nineteenth-century intellectual powerhouse」)、学問分野が誕生する以前の知的権威であるマーティノゥの重要性が主張されている。現代においても重要性を増している学際的な研究が、学問分野の形成期にマーティノゥによっておこなわれていたことを証明するものとして重要な著書である。本年度の業績におけるもう一つの共著出版は『経済学の座標軸』である。本著は東北大学を中心とした仙台経済学研究会のメンバーが執筆しており、9章「ハリエット・マーティノゥの経済思想」を担当した。翻訳と解説は、研究計画で常に、毎年行うことを目的としているが、今年度はハリエット・マーティノゥの経済思想「暴徒・不景気な時代の物語(下)(Rioters; or A Tale of Bad Times)を全訳した。
1: 当初の計画以上に進展している
現在までの進捗状況は概ね良好である。2017年1月に念願の「近代勤労思想研究会」を立ち上げたが、この目的はハリエット・マーティノゥの研究発表をするだけでなく、マーティノゥの知名度を上げ、近い分野の研究者とコラボレーションするという意図があった。つまり本研究課題においてはマーティノゥ自身の学際性から、多分野の仲間と連携をすることで高い研究成果が得られるのではないかと考えたのである。「近代勤労思想」という文言を入れたのは、マーティノゥが市場経済の外部の女性労働を「インダストリ」とよび、市場の外部にある女性たちの「勤労」を分析、重視したからである。その点から本研究においては、マーティノゥの経済学とマルクス経済学やフェミニスト経済学との関係も徐々に明らかになっている。研究会は会場の確保が可能かどうか不明な点が多々あり困難だったが、研究会を定期的に開催することができる場所として武蔵大学に協力していただき、またフェイスブックなどで趣意書を発表して、広く呼びかけた結果、有志が集まり、無事に開催することができた。今年度に行われる第二回も報告者が内定しており、今後継続の予定ができていることが研究の進展に大きく貢献している。また、海外の研究者との親密な学術的交流や毎年の学会発表における意見交換が、共著企画への参加につながり、今年度に出版まで実行できたことは、本研究課題の進捗に良い影響を与えている。これらのことから、当初の予定よりも比較的スムーズに進展していると思われるが、それに満足せず、今後も研究成果のまとめや海外研究者との学術情報のやり取りをおこないつつ、本研究課題に積極的に取り組んで行く予定である。
平成29年度の研究予定は、5月に研究に協力してくれているジョン・ヴィント教授が来日し、同志社大学(5.31)、経済学史学会全国大会(6.3)、大阪学院大学(6.5)で発表をするため、参加および協力、また研究における学術的交流をおこない、英文論文などの指導も受ける。釧路公立大学で開催されるマルサス学会(6.24~25)において、ハリエット・マーティノゥの『女性の勤労』について報告をする。7月に開催されるマーティノゥ・ソサエティ・コンファランスに参加、発表を行う。このコンファランスは海外研究交流ができる重要な場所であるので本年度(Hull市で開催)も参加しプレゼンテーションを行う予定である。テーマはマーティノゥの経済学とフェミニスト経済学との関係に焦点をあてる。8月に同志社大学で開催されるイギリス理想主義学会、全国大会にて報告予定(8.26)。9月第2回「近代勤労思想研究会」開催。12月第3回「近代勤労思想研究会』開催。翻訳は定期的に発表することが本研究課題の目的の一つであるが、本年度はFemale Industryの前半を翻訳した。6月に『武蔵大学総合研究所』紀要に公刊予定である。
海外文献調査及び学会報告のための費用だったが、都合により渡航期間が短くなったため、当初の想定よりも旅費が安価となり次年度使用額となった。
平成29年度の海外出張や文献資料取得及び調査費用として、また学術研究に関する情報交換のため、研究内容の発信に向けての諸費用やその他、想定していない国内での研究出張の費用として使用予定である。
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『武蔵大学総合研究所紀要』
巻: No.25 ページ: 1-23