研究課題/領域番号 |
16K03581
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研究機関 | 武蔵大学 |
研究代表者 |
舩木 恵子 武蔵大学, 総合研究所, 研究員 (00409369)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 経済思想 / 労働者 / モラル / ヴィクトリア時代思想 / キリスト教 / ユニテリアニズム / 経済格差 / 格差社会 |
研究実績の概要 |
本年度はハリエット・マーティノゥに関する論文を2018年度、8月に合計3点(そのうち1点は英語論文)公表した。以下に示すと、 ①"Harriet Martinet's political economy"(武蔵大学総合研究所紀要 No.27) ②「ハリエット・マーティノゥと社会のモラル」(イギリス理想主義研究年報 第14号) ③「ハリエット・マーティノゥの経済思想―労働者の自立と社会のモラル」『武蔵大学論集』第66巻 第1号である。これらの内容はハリエット・マーティノゥの思想体系において中心部分となるのでこれら研究による総まとめに入ろうと考えた。また本課題においてはこの裏付けを諸作品から分析することで彼女の思想体系とさらに現代的な側面が分析できるのではないかと考えていた。 しかしヴィクトリア時代思想の宗教的な側面を分析に加えたところ、彼女の生い立ちから継続して受容されてきた異端派のキリスト教ユニテリアニズムとその人間関係(人脈)の重要性に気づき、その部分を省いてとりまとめることはできないと考えるに至った。そこで宗教や哲学的背景を考慮に入れたハリエット・マーティノゥの経済思想を構築するために、現在彼女のアイルランド問題に取り組んでいる。彼女のLetter from Ireland(1852年)は資本主義経済の発展とそれから取り残されたアイルランドの経済格差を彼女がどのように分析したか理解することができるが、その視点が現代イギリス、EU離脱において問題視されているアイルランド問題への複雑な感情とどのように関係するか、あるいは全く関係がないのか、理解することで本研究課題がより深みを持つことになると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初はハリエット・マーティノゥの労働者に対する経済思想を分析し、モラルやソサエティの重視を強調したが、研究のまとめを意識するようになると、彼女の時代が英国経済にとって非常に重要な時期であり、女性や労働者の自立と参政権運動との関係も視野に入れる必要性を感じるようになった。また19世紀のイギリスを貫くベンサム主義的な功利主義が彼女の思想体系に加わっているのではないかということをマーティノゥの伝記作家で歴史家のロバート・ウエッブの著作から学ぶことになり、もう少し思想の範囲を拡大して分析することを意識するようになった。またマーティノゥ・ソサエティのメンバーからのアドバイスとしては、経済思想だけでなく19世紀イギリス思想史的な観点からの分析の必要性を指摘された。 進捗状態としてはまとめの時期にあるのだが、さらにユニテリアニズムやベンサム主義との関係を明らかにすることが重要ではないかと考えている。またJ.S.ミルをはじめとした同時代人たちとの関係を質問されることも多く、彼女の人脈も含めて整理をしておく必要があると思っている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題においては、マーティノゥの特徴でもあるモラルを重視しつつ、労働者と中産階級との協働を主張し、労働者や労働争議に関する独特のとらえ方をするマーティノゥの経済思想の分析とともに、ユニテリアンとのつながり、特に雑誌マンスリー・レポジトリや、自分でコラムを持っていたロンドン・デイリー・ニューズ、さらに彼女の後輩でもあるバーバラ・ボディション率いるイングリッシュ・ウーマンズ・ジャーナルなどの当時の新しいメディア、雑誌出版(ジャーナル)の論説記事や論文などを分析し、現実的な諸問題に彼女がどのように考えて対処し、実践したのかということを分析し、ハリエット・マーティノゥの政治思想と現代的側面をより明白にしたいと考えている。経済思想と政治思想は密接に関係しているが、その状態がマーティノゥの場合はどのようになっているのか理解や分析を深めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果のまとめ・出版を予定していたが、不足している研究があるため、計画変更してその件について研究遂行することにした。次年度夏季に現地調査、文献調査をする予定なので現地調査旅費として使用する計画である。
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