研究課題/領域番号 |
16K03582
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
中野 聡子 明治学院大学, 経済学部, 教授 (20245624)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 限界革命 / ミクロ理論 / ジェヴォンズ / エッジワース / マーシャル / パラメトリック外部性 / 不均衡 / 制度設計 |
研究実績の概要 |
本研究は、イギリスで1870年から1890年にかけて、不均衡論的分析視点が均衡論のそれよりも先行する形でミクロ分析が構築されたことを研究する。特に、具体的な制度構築を模索する視点、ひいては、個別主体行動の確率的性質を考慮し、実証分析、統計分析をも進展させた点に注目する。なぜ、ジェヴォンズやエッジワースの視点は一度埋没し、市場均衡理論の定式化が席巻したかを精査する研究の一環として、平成28年度は、「規模のパラメトリック経済の定式化の学説史上の意味:F.Y.エッジワースがH.カニンガム(1904)への書評で意図したこと」(forthcoming)にその内容を発表している。「規模のパラメトリック経済」(parametric economies of scale)は、個々の企業は自身の内部経済について規模に関する収穫逓減の生産関数を有しているが、産業全体の全企業の生産量の集計に依存する外部経済については、規模に関する収穫逓増となるモデルである。本研究は、この定式化の経済学史的背景を明らかにした。第一に、「規模のパラメトリック経済」の定式化は、カニンガム(Cunyghame(1904)の著書に対するエッジワースの書評論文(Edgeworth(1904))の脚注で展開され、本質的な部分はエッジワースの議論であることを指摘する。第二に、エッジワースは競争市場と外部経済の両立の可能性を指摘しながらも、むしろ、彼の主旨は次の点にある。完全競争をその特殊ケースとするより一般的な市場、すなわち価格だけでなく、他の主体の行動を互いに考慮する相互依存の発生する市場をどう分析するかについてのエッジワースの方法的見解の表明にあることを指摘した。この研究成果により、ゲーム的状況も含む市場の分析の視点が、需給均衡の数理化に先行する形で提起された限界革命期の状況が明らかとなった。この内容は、2017年北米経済学史学会で報告すべく準備されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、次の2本を初年度において執筆する予定であった。① “Edgeworth’ insight into his Limit Theorem in relation to Jevons and Marshall: A shared vision in the British Marginal Revolution toward the local market interactions” エッジワースの極限定理は、エッジワースのMathematical Psychics (1881)にその洞察があることは知られているが、エッジワースの孤立的な業績としてしか学史上これまで位置づけられてこなかった。現代の定式化もワルラス均衡との関係に焦点が当てられてきた。本論文は、分析的な想定としてはMarshall (1879) Pure Theory of Foreign Trade, private circulationに一部由来することを指摘する。② “The Parametric formulation of Marshallian Externality by Edgeworth in his Review of H. Cunynghame’s A Geometrical Political Economy”このうち②の執筆を先行させた。後者を明確にしてのち、前者が解明されることが明らかになったためである。また、エッジワースの制度設計の視点を明確にする上で、1915年前後に執筆されたエッジワースの戦争論について論文を作成することが新たに計画され、それに向け準備及び調査がなされた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、(1)エッジワースの極限定理についての論文(2)パラメトリック外部性についての論文を英文論文にする。加えて、新たに計画された(3)エッジワースの戦争論についての論文に同時並行で取り組む。またこれらの論文の論証に必要な資料として各地に散在しているエッジワース資料を、本研究の観点から整理し、渉猟することが必要である。29年度から本格的に展開したい。各地に散在する資料は、次のようなものである。1)Edgeworth papers at Nuffield College, Oxford 2)Edgeworth papers at the British Library of Political and Economic Science of the London School of Economics Keynes Papers, Marshallian Library, Cambridge 3)Wicksell papers, Lund University 4)Foxwell papers, Baker Library, Harvard University. 関西学院大学 5)Harrod papers, 千葉商科大学 6)Golton papers and Peason papers, University College London
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、次の2本を初年度において執筆する予定であった。① “Edgeworth’ insight into his Limit Theorem in relation to Jevons and Marshall: A shared vision in the British Marginal Revolution toward the local market interactions” 。② “The Parametric formulation of Marshallian Externality by Edgeworth in his Review of H. Cunynghame’s A Geometrical Political Economy”このうち②の執筆を先行させたため、当初計画していた北米での学会発表が今年度に持ち越されたため。
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次年度使用額の使用計画 |
上の理由にあげた後者の論文を2017年6月に北米の経済学史学会で報告することになっているので、学会発表の費用として支出がすでに決まっている。29年度から以下の各地に散在する資料調査に本格的に展開するため支出予定であ。1)Edgeworth papers at Nuffield College, Oxford 2)Edgeworth papers at the British Library of Political and Economic Science of the London School of Economics Keynes Papers, Marshallian Library, Cambridge 3)Wicksell papers, Lund University 4)Foxwell papers, Baker Library, Harvard University. 関西学院大学 5)Harrod papers, 千葉商科大学 6)Golton papers and Peason papers, University College London
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