研究課題/領域番号 |
16K03584
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研究機関 | 関東学院大学 |
研究代表者 |
石井 穣 関東学院大学, 経済学部, 准教授 (10587629)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ジョン・バートン / イギリス / 古典派経済学 / 救貧法 / 植民 / 穀物法 |
研究実績の概要 |
本研究は19世紀前半のイギリスで活動したジョン・バートン(1789年生-1852年没)の経済学者としての全体像を明らかにすることを目的としている。バートンは機械導入と労働需要に関する先駆的分析により知られているが、救貧法、移民、穀物法、金融恐慌など、当時の主要な政策的課題についても検討を行っており、その全体像はいまだ解明されるに至っていない。本研究ではバートンの公表済みの著作に加え、LSEなど海外の図書館、公文書館などに所蔵されている書簡および手稿を分析することで、バートンの経済学者としての全体像に迫ろうとするものである。この研究は以下の点で経済学史研究に貢献するものと考えられる。第一に、バートンの経済学的考察や政策論という点での新たな知見がもたらされる。第二に、バートンとリカードウ、マルサス、およびシスモンディなど当時の主要な経済学者との関係を詳細に検討することによって、これらの経済学者たちの関係について新たな洞察と課題を見いだしうる。そして第三に、古典派経済学者の周辺にあって、政策的問題について論じていた時論家たちの、当時の思想的状況のなかでの位置づけや相互の関係を考える手がかりともなりうる。本研究計画を実施するまでに、バートンにおける資本蓄積と貧困、救貧法について論じており、平成28年度は、過剰人口についてのバートンの分析と、移民(海外植民)に関する政策提言について研究報告を行った。バートンはスミスやリカードウの経済学の批判的考察から、マルサス人口論へと理論的基礎を移してゆくとともに、原理としてはマルサス人口論を評価しつつも、政策論においてはマルサスに反対していたことが明らかとなった。またバートンの手稿の分析を行い、かなり初期の段階から貨幣や金融の問題に興味を抱いていたことを伺い知ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究計画は、第一に移民についての提言を行った1830年刊のバートンのパンフレットを検討し、そこでの経済学的考察の特徴をまとめること、第二にLondon School of Economics Library所蔵のバートンの手稿の閲覧と分析とを行うことを目的に進められた。上記の移民に関するパンフレットの検討については、平成28年6月2日にロンドン大学のSOAS(東洋アフリカ研究学院)にて行われた国際会議にて、John Barton on population and colonizationのタイトルで研究報告を行った。会場からは機械論と植民論の関連について有益なコメントを受けるとともに、内容構成上の課題について指摘もあった。これらをふまえ平成29年度の公表をめざし、英語論文として完成させる作業を進めている。また平成29年2月にLSEへの出張を行い、バートンの手稿を閲覧するとともに、分析を行った。バートン自身が作成した目次をもとに全体像の解明を進め、デジタルカメラで撮影した画像をもとに、詳細な内容の検討を行い、現在も作業を進めている。その他、日本におけるバートン研究の先駆的存在である真実一男(1920年生-2004年没)の研究業績を分析し、論文として公表した。予定していた海外研究報告と資料調査を実施することができ、同報告の英文論文としての公表に向けた準備も進行していることから、現在まで本研究計画はおおむね順調に進んでいるものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の研究においては、まずバートンの植民に関する研究報告の英文論文として仕上げ公表する。19世紀前半のイギリスにおける植民の実施状況や、ホートンやウェイクフィールドなどの先駆的な議論をふまえ、バートンの考察の特徴を明確にすべく作業を進める。またバートンの穀物法に関する論考および提言(1833年および44年のパンフレット)についても、海外での研究報告を実施する。平成29年9月3日から5日にかけて実施される、イギリス経済学史学会(UKHET)にて、John Barton on Corn Laws and Malthusのタイトルにて報告予定である。あわせてバートン手稿の分析を進める。製本の性質上、デジタルカメラでの撮影に限界があり、判読困難箇所を改めて確認する。またウエストサセックス公文書館をはじめ、各地に散在するバートンの書簡についても研究費と時間の都合が許す限りで資料収集と分析を行う。平成30年度の研究では、金融恐慌の原因に関するバートンのパンフレットの分析を進める。同時にこれまでの2年間の研究成果をふまえ、経済学者としてのバートンの全体像を解明を試みる。救貧法、植民、穀物法、金融恐慌におけるバートンの分析と政策提言、あわせて古典派経済学の資本蓄積に関する見解へのバートンの批判的考察をいかに総合しうるか検討し、イギリス経済学史学会をはじめとした海外での研究報告を行う。またバートンと穀物法に関する英文論文の公表を進める。
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