研究実績の概要 |
本研究は、19世紀初期のイギリスにて活動した経済学者、ジョン・バートン(John Barton 1789年生~1852年没)の経済学者としての全体像を明らかにすべく進められた。バートンの1820年以降の著作に着目し、救貧法、植民、穀物法、金融恐慌など時論的・政策的諸問題について取り扱ってきた。また本研究ではバートンの公表された著作に加え、手稿・手紙類の調査も行いつつ、検討を深めてきた。バートンはリカードウと比較されることが多かったが、本研究を通じて、マルサスに対しては二面的な評価をしていたことが示された。平成30年度まで、バートンはマルサス人口論を原理として評価しつつも、貧困救済にあたっての救貧法の役割を評価し、植民についても積極的に支持するなど、政策面ではマルサスとは異なる立場をとっていたことを示してきた。穀物法については、穀物価格の下落が死亡率や犯罪率に及ぼす影響を取り上げ、その是非を考えるという、独自の立場を示していたことも明らかにし、後半生においては小農民的な所有の再建を重視する立場を強めていたことも取り上げた。平成31年度は、この延長線上に、同時代的な考察との関連で、バートンの特徴をより明確にする予定であったが、小農民的な所有の再建への志向は、ロマン主義など思想史的な論点とも関連があり、現段階での完成は難しいと判断した。そこでバートンが比較的早くから関心を持っていた、貨幣供給の変化が社会に及ぼす影響について議論を進めることとした。これについては、マルサス学会第29回大会(沖縄国際大学, 2019年6月30日)およびオーストラリア経済学史学会(シドニー大学, 2020年10月4日)にて研究報告を行い、『マルサス学会年報』第29号において公表される予定である。
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