本年度の研究予定は、①前年度実施したスミスの音楽論に関する現地での資料調査の結果に基づき、『国富論』や「模倣芸術論」における「音楽の役割」についての考察を中心に論文にまとめること、②『道徳感情論』における共感理論の正確な再構成、つまり、第二部の論理的位置の確定について、国際スミス学会と経済学史学会で発表し、③出席者からの意見や批判を参考に、予定している自著の第二章を完成させる。④課題遂行をよりスムーズにするため、『国富論』全体の新訳を完成させ、刊行する。 ①については、『国富論』に関する限り、それは特に人間の発達・感性の過程で、伝統的な音楽教育がもつ意味を探ろうとするものであり、軍人にふさわしい気風の形成に役立つとするギリシャの思想に対する「疑念」の表明が濃厚であり、批判的であり、最後までこの疑念を抱いていたことを確認することができた。しかし、『国富論』における人間本性の議論は不明確なところが多いため、確定的なものを書き上げることはできず、現在もそれを突き止める作業の途上である。 ②については、英文と日本語でそれぞれおおよその原稿を完成して組織委員会に提出したが、コロナウィルス対策の一環として、すべての学会・研究会開催が中止されたため、発表の機会がなくなっただけでなく、③における他の研究者からの意見や批判を入手することもできなくなった。 結果的に支出できなかった出張旅費のうち、一部は研究図書の購入に充てたが、支出期限も迫っており、おおよそ半分を「未使用」として返還した。 ④『国富論』を翻訳する作業は、厳密なテキスト理解のための準備作業であり、ここ数年並行的に遂行してきたが、ようやく完成し、講談社学術文庫(上)(下)二巻で刊行されつつある。
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