研究課題/領域番号 |
16K03593
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
山本 庸平 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (80633916)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 動学的因子モデル / ジャンプ / 発散過程 / 構造VAR / 因果効果 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、4回の国際学会・セミナーおよび1回の国内学会でこれまでの成果を発表したほか、国際学術誌に投稿している論文に改訂依頼があり、研究を大きく改善することができた。いずれの学術誌も要求水準が高く、学会発表やセミナー報告では得られないような親身になったコメントを貰うことができた。 課題A「動学的因子モデルにおけるジャンプなど外れ値の分析への応用」は、論文「Asymptotic Inference for Common Factor Models in the Presence Jumps」についての査読結果を平成29年5月に受け取った。査読者から、為替データを用いた実証分析をより説得的にすること、およびジャンプ補正方法の導出の修正を示唆され、修正・改訂したうえで平成30年2月に再投稿した。 課題B「構造変化分析への応用」は、論文「Testing for Speculative Bubbles in Large-Dimensional Financial Panel Data Sets」を国際学会およびセミナーで発表し、貴重な意見を得た。また、学術誌からの査読結果を平成29年5月に受け取り、時系列方向とクロスセクション方向を同時に無限大にする漸近理論での証明を求められ、改訂作業を行ったうえで平成29年8月に再投稿した。 課題C「因子の動学プロセスの解明」は、論文「Bootstrap Inference for Impulse Response Functions in Factor-Augmented Vector Autoregressions」を国際および国内学会で発表し、貴重なコメントを得た。また、学術誌からの査読結果を平成29年10月に受け取り、米国マクロ経済データを用いた実証研究を既存文献により即したものにすることを求められ、鋭意改訂中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題Aは約80%進捗した。ワーキングペーパーで、外れ値の補正方法の提案とクロスセクションにおける共通のジャンプを検定する手法を提案することができている。また、その成果を通算で9回の学会・セミナーで発表し、そのコメントを反映させている。現在は、国際学術誌の査読者からのより精緻なコメントに丁寧に対応している最中であり、平成29年度中には一旦改訂作業を終え、順調にいけば平成30年度前半にはそれに対する査読結果が返される予定である。 課題Bは約50%進捗した。平成29年度は、過年度に公表したワーキングペーパーにつき、国際学術誌の査読者からの要請に多くの時間を使って丁寧に対応した。とりわけ、理論的に非局所漸近論を時系列とクロスセクションの次元が同時に無限大になる枠組みで組み立てたことは大きな貢献である。現在はワーキングペーパーを学術誌に出版する作業を鋭意進めている。 課題Cは当初計画の約80%が進捗したことに加え、研究成果の対外発表については当初予定以上の進捗があった。具体的には、国際学会での発表に対して好意的な反応を得た他、ワーキングペーパーの引用数も伸びた。とりわけHandbook of Macroeconomicsの章など、国際的なエクスポージャーの高い書籍で引用された他、日本銀行調査統計局の計量経済学セミナーでも実務者向けの解説を行った。 いずれのプロジェクトも、国際学術誌への出版の問題が残っており、研究者にはコントロールできない部分も大きいが、最終年度に向けておおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者は、平成30年度は国際共同研究加速基金の支援を得て米国ボストン大学に滞在することとなった。滞在先でも本科研で予定しているエフォートは達成できる予定であるが、生活のセットアップに時間が掛かったり、海外への移動に伴い過年度に用いていた研究用の機器の一部にアクセスできないという問題が生じる。かかる問題については米国で新規に調達する等の対応を迅速に行うものの、米国における研究機器の購入については、所属先での事務処理が煩雑となるため、支出項目を形式的に旅費を中心にするという変更が生じる予定である。 研究課題が達成困難である場合には、国際的に活躍する関連研究者に比較的アクセスしやすい状況にあることを最大限に利用する。具体的には、国際共同研究加速基金での受入先である米国ボストン大学だけでなく、平成30年5月にはアルバータ州立大学(カナダ)、10月にはマギル大学(カナダ)への短期の研究滞在を予定している。このように、平成30年度は国際共同科研での課題との相乗効果を図りつつ、日本では直接議論することが難しい専門家の知見を仰ぐことで、本科研課題のより効率的な遂行を図る予定である。 課題Aは、査読プロセスにおいて技術的な問題が全てクリアされたと判断されるか否かを見極め、注意深く学術誌の編集者および査読者の示唆に対応していく方針である。課題Bも、査読プロセスに対して十分な時間と労力を掛けることで研究成果を向上させたい。なお、本課題は実用化に向けた長い道のりの一歩であるため、多くを一度に追うことなく着実に進めていくことも肝要であると考える。課題Cは、査読プロセスに注意深く対応することに加え、非常に時宜を得たトピックであり新たな関連研究も生まれてきているため、それらをフォローする作業も行っていく方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度に在外研究を行うこととなり、本課題で必要な機器やソフトウエアを購入する必要があり、支出予定を後ろ倒しにしたため、滞在先の米国で本課題のエフォートを達成することになり、現在進行中の国際学術誌のやり取りを遂行するためにシミュレーションの追加作業や査読者向けのレポートの作成などが予想される。このため、追加的な滞在費に加え、本務校で用いていたデスクトップPC、プリンタ、書籍の多くを携帯することができないために本研究に必要な機材やソフトウエアを新規で購入する。
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