研究課題/領域番号 |
16K03594
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
黒住 英司 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (00332643)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 構造変化 / モニタリング検定 / CUSUM検定 / 信頼領域 |
研究実績の概要 |
1.研究目的で記述されているとおり,本研究の目的はモニタリング検定の新たな理論の開発とその応用である。平成29年度の実施計画では,モニタリング検定の最適性の理論の開発であり,そのための施策として,まずは検定のサイズをいかに制御するかについて考察した。先行研究の結果も踏まえ,モニタリングの各時点での第1種の過誤がすべて同一となるように臨界値を逐次的に変えていけば良いという結論に至った。これは,最適性の議論を行うための重要な足がかりとなる結論である。 2.平成28年度実施報告書で記載したとおり,平成29年度には研究協力者のAnton Skrobotov氏(Russian Presidential Academy of National Economy and Public Administration)と共同で,共和分モデルにおける構造変化点の信頼領域の新たな構築方法を開発した。モンテカルロシミュレーションにより,提案した方法が既存の方法よりも優れていることが明らかになった。 3.モニタリング検定にはしばしば逐次残差に基づくCUSUMタイプの統計量が使われるが,このタイプの検定統計量は,構造変化の方向と説明変数の平均が直交している場合には検出力が上がらないことが知られている。そこで,平成29年度には,研究協力者のPeiyun Jiang氏(一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程)と共同でこのような欠点を補った修正CUSUM検定を提案し,対立仮説における漸近特性の分析を行った。 4.平成28年度実施報告書で記載されているとおり,モニタリング検定を行う際には,トレーニング期間の特定化が必要である。その際,構造変化の検定を行うのと同時に,変化が検出された場合,変化点の信頼領域を求めることが安定したトレーニング期間を設定するためには重要である。そこで,平成29年度には,変化点が観測期間の端点近くで検出された場合の,変化点の信頼領域の構築方法の開発を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.本研究の目的はモニタリング検定の新たな理論の開発とその応用であるが,平成29年度は計画通りに,最適性の理論について考察をすすめた。モニタリング検定の場合,データ更新毎に逐次的に検定を行うために,検定のサイズの調整と検出力の関係が複雑となるが,検定のサイズの調整方法に一定の目処が立った点では,研究が順調に進捗したといえる。 2.平成28年度の研究で,安定したモニタリング検定を遂行するためには,トレーニング期間を適切に設定する必要があることを明らかにした。そこで,平成29年度には,共和分回帰モデルに構造変化を導入して,既存の構造変化の検定により検出された変化点の信頼区間の構築方法を新たに提案した。また,ロシアのマクロデータを用いて実証分析を行い,その有用性を示すことができた。この結果は,実際に共和分回帰モデルでモニタリング検定を運用していく際に大いに役に立つ。 3.モニタリング検定でしばしば使われているCUSUMタイプ検定の欠点を補った新たな検定統計量を提案したことにより,これまでの手法では見つけられなかった変化を見つけることが可能となったため,今後の実証研究に大いに役に立つことが期待できる。 4.平成29年度計画通り,国内・外の学会へ参加し,モニタリング検定と関連する研究について意見交換を行った。 以上のことから,総じて,本研究は順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は概ね順調に推移しているため,今後の研究推進方策,すなわち,モニタリング検定の理論の開発とその応用という方向性については,大きく変更する予定はない。ただし,研究をすすめるにつれて,研究目的達成のために必要な新たな課題が生じてきている。そこで,今後の推進方策は以下のように進めていくこととする。 1.モニタリング検定の最適性の理論の開発は短期間に成し遂げられるものではなく,より深い洞察が必要である。したがって,最適性については性急に結論を求めるのではなく,時間をかけて検討を進めていくこととする。 2.安定したトレーニング期間を設定するためには,構造変化の検定が必要で,構造変化が検出された場合には,変化点の信頼領域を求めることが重要であることは前述の通りである。そこで,平成30年度には,これまですすめていた,変化点が観測期間の終点近くで検出された場合の,変化点の信頼領域の構築方法の開発を完成させる。 3.近年,バブル現象の検定に関する先行研究がいくつかあるが,バブルの検出は事後的に行うよりも,モニタリングのスキームでリアルタイムに検定することが重要である。したがって,モニタリング検定のバブルの検出への応用をすすめていく。 4.平成29年度と同様,国内外の学会等に参加し,最先端の研究について意見交換を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 計算機(PC)の購入を,平成30年度初めに移行したため。 (使用計画) 次年度使用額については,平成30年度助成金と合わせて,PCの購入に充てる予定である。
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