非定常なパネルデータの生成過程として,階差系列が反転不可能な移動平均過程に従うものと想定した場合のモデルを考えて,その場合の係数の単位根検定の局所検出力の漸近理論を考察した.その場合,移動平均過程が初期値を 0 とする条件つきの場合と,条件をつけない定常過程の場合とでは,異なる結果が得られることを明らかにした.また,モデルの説明変数として,切片やトレンドが個別効果をもつ場合と,もたない場合では,クロスセクション方向の漸近的な結果に違いがあることも証明した.さらに,別のモデルとして,誤差項が混合的な形となる状態空間パネルモデルを考えて,定常性を検定する場合の漸近的な局所検出力も導出した.この場合にも,説明変数が個別効果の有無により,クロスセクション方向に異なる結果が得られることを証明した. 別の研究成果としては,連続時間の確率過程として,長期記憶性をもつフラクショナル Brown 運動を誤差項とするモデルにおける推定問題を考察した.特に,ドリフト係数の推定方法として,LSE(最小 2 乗推定量)とMLE(最尤推定量)を考えて,両者の推定効率を比較した.比較の方法は,エルゴード的(定常的)な場合には,漸近分布の分散,非エルゴード的な場合には,漸近分布の集中確率を使用した.そして,これらの場合には,MLE の方が優れていることを示した.また,境界的(係数が 0)な場合には,推定量の平均 2 乗誤差で比較した結果,LSE の方が優れていることを示した.この問題については,さらにパネルモデルへの拡張を試みて,なお研究の過程にある.
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