研究実績の概要 |
4年目(最終年度)は, 昨年度から着手した,「市場クオリティの測定に関する方法論の確立と実証分析」と「高頻度・高速領域における市場参加者の取引行動に関する理論構築」を軸に研究を進めた. 前者は, 近年普及の目覚しい「推薦システム」を応用することで, 個別株式銘柄の高頻度領域での流動性を評価する方法論を検討した. スパースで相関性の高い高頻度データを使った個別銘柄の流動性の推定問題は,「協調フィルタリング」が有効に働く可能性がある. 本研究では, 欠損が特に著しい「コールドスタート問題」に対応するため, Agarwal and Chen (09)による回帰ベース潜在因子モデルを採用し, 銘柄属性や市場全体に関する情報の活用を検討した. 東証一部の高頻度注文板データを用いて検討手法の有効性を調査した. 後者は, Kyle(85)型の市場モデルを構築した. この理論モデルは市場に高速と低速の2種類のトレーダーが存在すると仮定する. 数値計算により, 二者間の取引頻度の差が大きい場合, 取引頻度に優位性がある高速トレーダーが低速トレーダーとは反対のポジションを取るという点で, 流動性供給者としての役割を果たすことを示した. この理論的な含意は, 実際の市場におけるHFT(高頻度取引)業者の1日内の取引行動と整合的と考えられる. また, 初年度から取り組んでいる「ウェーブレット法」による先行遅行関係分析は, 理論面での整備を継続した. 推定方法を一部改良し, 国内の指数連動型ETFデータに適用し方法の有効性を調査した. 今年度, 国際誌掲載1件, 学会発表3件(内国際会議1件), 新型コロナ感染拡大で中止となった学会発表が4件(同1件)あった. 現時点での未刊行論文3本, 学会発表予定2件(同1件), 発表申込中1件(同1件)を含め, 期間終了後も研究を継続し順次成果報告を行いたい.
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