この研究の目的は、実現ボラティリティのデータを使用して、ボラティリティのもつ長期記憶性について分析していくことである。特に、確率的なボラティリティが一般化ARFIMA過程に従うモデルを考えて、その仮定が適切かどうかを検証する。平成30年度は、平成29年度に続き、構造変化がもたらす「見せかけの長期記憶性」の問題に取り組んだ。Lee 他 (2003)のCUSUM検定により「見せかけの長期記憶」と判断されたデータについて、構造変化が起きていないと判断された時期だけで推定すると、長期記憶パラメータは有意となることが判明した。この原因は、CUSUM検定の検出力の低さの問題と考えられる。 現段階では、実現ボラティリティに長期記憶を仮定するほうが適切と判断されるため、多項ゲーゲンバウアー過程のように複雑な長期記憶をもつ確率的ボラティリティ変動モデルを用いて実証分析をおこなった。その結果、予測力が向上することがわかったので、この成果を論文にまとめた。 その他、予備的な研究として2編の論文を完成させることができた。1つは、So (1999)のシミュレーション平滑化法を拡張して、長期記憶と非対称性をもつような確率過程に応用できるようにした。これにより非対称性と長期記憶をもつ確率的ボラティリティ変動モデルについて、近似を用いずにシミュレーションができるようになった。またRealized Stochastic Volatilityモデルをカルマンフィルターで擬似最尤推定しても、その効率性はほとんど下がらないことを示し、様々なモデルを簡単に推定できることを紹介した内容を論文にまとめた。 3編のうち最後の1編は学術誌に掲載され、最初の2編も学術誌に掲載が決定している。
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