本研究課題に関連する2021年度の研究実績は,査読付き国際学術誌掲載論文1本である.当該論文は本研究課題の中核を成す研究成果であり,I(1)とI(2)が混在する共和分時系列の多変量Beveridge-Nelson(B-N)分解をベイズ推定する手法を開発し,アメリカの主要マクロ経済変数(インフレ率・実質利子率・失業率・実質GDP)の自然率とギャップの同時推定に応用している. 本来の多変量B-N分解は,複数のI(1)時系列を同時に確率的トレンドとギャップに分解する手法である.しかし実質GDPを含むマクロ経済時系列に多変量B-N分解を単純に適用すると,米国以外のデータでは,しばしば発散する不自然なGDPギャップが得られる.また近年のマクロ経済学の標準的な理論における動学的IS曲線では,実質GDP成長率と実質利子率の和分次数は等しいとされる.したがって実質利子率がI(1)なら実質GDP成長率もI(1)なので,実質GDPの対数値はI(2)となり,さらに実質GDP成長率と実質利子率は共和分時系列となる.本研究はI(1)とI(2)が混在する共和分時系列に多変量B-N分解を拡張するものであり,主要マクロ経済変数の確率的トレンドとギャップを同時に推定することができる.確率的トレンドは自然率とも解釈できる. 本研究で提案する手法の意義は2点ある. (1)多数のマクロ経済変数の相互依存関係を考慮して,相互に整合的な自然率とギャップを同時に正しく推定できる. (2)ベイズ法により自然率とギャップの推定誤差を容易に評価できる. 自然率とギャップを正しく把握することは,成長戦略と景気対策という2つの異なるマクロ経済政策を適切なタイミングで実行していく上で重要である.
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