研究課題/領域番号 |
16K03609
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研究機関 | 学習院女子大学 |
研究代表者 |
宇野 公子 学習院女子大学, 国際文化交流学部, 教授 (80558106)
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研究分担者 |
安藤 朝夫 東北大学, 情報科学研究科, 名誉教授 (80159524)
加藤 真紀 一橋大学, 森有礼高等教育国際流動化機構, 准教授 (80517590)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 国際人口移動 / 人的資本形成 / 留学行動 / 多国計量モデル / 二国動学モデル |
研究実績の概要 |
本研究はASEANを始めとする途上国経済を中心に,高度専門人材の移動状況と人的資本の蓄積に与える影響を,データ比較分析・モデル定式化・計量分析等を通じて実証することを目的とする。併せて,2国動学モデルを用いて人口減少国の持続可能性に関する理論的検討を試みるものである。 29年度は,関連文献のサーベイを進めると共に,博士論文の指導を介して移民のフローを出身国の人口(押出し効果),出身国とホスト国の失業率及び賃金格差で説明するため,Migration and Remittances Data (世界銀行), OECD諸国への移民データベース(DIOC),UNESCO Institute for Statisticsの教育データ, 及びILOSTATの性別・職業別の移民労働者データを結合して,出身231ヶ国,ホスト87ヶ国を含む2010年時点の流動人口ストックに関するデータベースを作成し,基礎的な分析を実施した。また高等教育と関連する国際流動について,短期留学が長期留学を促す効果(海外移動の連鎖)に関する実証分析を行うと共に,日本を対象に,高度人的資本の進学移動と卒後移動に関する分析を行い,それらの結果について国際学術誌等で発表した。さらに北の人口減少国と南の増加国が併存し,2種類の技能をもつ労働者を含む2国動学モデルを用いて,世界政府による長期的厚生の割引現在価値の最大化問題に関する数値解析を行い,教育投資と高度人材移動を通じた両国の持続可能性に関する予備的な検討に関する結果を国際学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度は研究代表者及び一部分担者の定年退職の直後に当たり,新しい研究体制の構築に伴う研究の遅延が発生したが,平成30年度を通じて完全には取り戻せてはいないため,研究期間を1年間延長する申請を行った。大規模なデータを扱う研究では,ゼミ学生等による研究補助が成果に寄与することは否定できず,前任校における博士論文指導を通じて,本課題における実証研究の効率化を図った。また高等教育に関する人的流動に関しては,海外移動の連鎖や国内における進学移動に関する分析を行い,国際学術誌等において複数の成果を発表している。 本研究に含まれる,高度人材の国際移動に関する現況把握に関しては,国際機関に対するヒアリングを実施したが,これにはILO, IOM, UNESCOのNew York事務所や世界銀行本部が含まれ,然るべき担当者から各機関における研究業務やデータの所在に関して有益な情報が得られた。またタイ国の研究者と,ASEAN域内外の移動に関する国際共同研究を予定していたが,繰越した予算はこれに使用する予定である。 2国動学モデルに関しては,多様なパラメータの組を試して解の存在領域を調べるという逆解析的アプローチを採る必要があるが,そのための数値計算を行う体制の整備を実施した。また国際間取引に伴う富や温暖化ガスの帰属を明確にするために,いわゆる付加価値貿易(VAiT)モデルに関する論文を投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度には,これまでの遅延を取り戻すべく,計画的に研究の進捗を図る。具体的には,データに含まれる移民出身国を増やすことを目的に,最適なデータ区分に関して検討する。例えばOECDの学歴データは3区分であるのに対し,UNESCOのそれは6区分と異なり,賃金はILOSTATから職業9区分(ISCO)で得られるため,学歴と職業の読み替えが必要になる。モデルで使用する変数の内,出身国・ホスト国の人口や平均賃金は殆どの国でデータがあるが,区分の細分化は欠損値の増加に繋がるため,効率的な区分集約について精査し,十分なサンプル数を確保した上で,学歴別人口移動モデルに関する実証分析を行う。 高等教育と関連する国際流動に関しては,アジアにおける留学機会の効果と公正に関する論文を執筆し,これを基としてRoutledgeより出版予定の“Study Abroad and Student Mobility: Navigating Challenges and Future Directions” (仮題)の1章を執筆すると共に,米国で開催される国際学会でも発表を予定している。2国動学モデルは,出生率や教育効率等15のパラメータを含む形で定式化されるが,解に到達可能なパラメータ領域はかなり制限されることが知られている。その領域を特定することは,我国のような人口減少国の持続可能性を探る意味で興味深い。従って最適制御問題を,より効率的に解くためのプログラム改良にも取り組みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は,研究代表者及び一部分担者の定年直後に当たり,新しい研究体制への移行に時間を要した。このため全体として,研究スケジュールに1年弱の遅れが出ている。30年度に関しては,新しい研究体制の下で概ね順調に推移しているが,結果的に予算執行面でも若干の遅れが生じたため,研究期間の1年間延長を申請し承認が得られた。 このため平成31年度が事実上の最終年度になるため,本研究の主要課題である,学歴別労働者の国際移動に関する実証分析を,特にOECDとASEANに着目して実施する予定である。このためデータ整理等の研究補助のための謝金のみならず,遅れている国際共同研究の進捗を図るための研究連絡や成果発表のための旅費が見込まれる等,予算の効率的執行に大きな問題はない。
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