研究課題/領域番号 |
16K03616
|
研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
岩田 真一郎 富山大学, 経済学部, 教授 (10334707)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 高齢者 / 住宅資産 / 持ち家 / 遺産動機 / 暗黙的年金契約 / 親子間リバース・モーゲージ |
研究実績の概要 |
高齢化に伴う社会保障給付費を誰が負担するかという議論の中で、高齢者自身の住宅資産を活用する案が注目を集めている。この方法としてリバース・モーゲージの活用が注目されるが、欧米に比べてリバース・モーゲージ市場には厚みがなく、高齢者の認知度は低いと言われる。一方、日本では、高齢者が子に住宅資産を残し、その礼として金銭的な援助を子から受け取るという互恵的依存関係の存在がしばしば指摘される。高齢者が世代間住宅資産移転を通じて、子から金銭支援を受け取り、生活を維持しようとする試みは、親子間リバース・モーゲージが暗黙的に契約されていることを意味すると考えられる。
そこで、「日本家計パネル調査」(慶應義塾大学)の2005年から2016年の個票データを使用し、子が親から住宅を遺産として受け取ると期待したときに、実際に親への金銭的な援助額を増やしているかどうかを分析した。約1万5千の家計の記述統計から、子から親への年間援助額は平均8万2900円に止まった。また、半分の子が親から住宅を遺産として受け取ると期待しているが、親へ金銭援助する子は6人に1人ほどであった。この割合の違いは、親が必ずしも子からの金銭的見返りを期待して、住宅を遺産として残していない可能性を示唆する。
ただし、様々な要因を制御して分析した実証研究からは、相続確率が上昇すると、援助額が上昇することがわかった。2014年の「全国消費実態調査」 (総務省統計局)によると、高齢無職世帯の1ヶ月あたりの消費支出は可処分所得を約3万4千円上回っている。実証分析の結果は、相続確率が約64パーセントのとき、親子間リバース・モーゲージの活用によってこの不足分を賄える計算となった。ただし、サブサンプル分析からは、子世帯の所得が低いと、親子間リバース・モーゲージが成立しないことが認められた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、昨年度から続けている高齢者が住宅資産を活用して、消費を維持できているのかを計量経済的に分析し、国内外の学会で発表し、ワーキング・ペーパーとしてまとめた。その後、高齢者が住宅資産を子に残し、子から金銭的援助を引き出せているか(親子間リバース・モーゲージの存在)を計量経済的に分析し、仮説と整合的な結果を得た。この結果を論文にまとめ、国内の学会や研究会で発表し、論文改定の貴重なコメントを得た。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、高齢者の住宅資産と消費の関係についてまとめたワーキング・ペーパーを海外の査読付き雑誌に投稿する。また、引き続き親子間リバース・モーゲージの研究を国内外の学会で発表し、ワーキング・ペーパーにまとめた後、査読付き雑誌に投稿する。新たな研究として、子が親から住宅を遺産として受け取ると期待したときに、子が親に対して非金銭的な援助を増やすかどうかを分析していく。非金銭的な援助の変数としては、介護・介助をしているか、介護・介助の頻度、親との居住距離(近いほど、親との接触や介護・介助しやすい)を考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
年度末の国際学会の参加を辞退したため。
|