本研究では当初のテーマを大きく2つに分けて、論文を進めてきた。一つ目は、家庭系廃棄物の処理を民営化することによって、リサイクル率にどのような効果が出るかを産業組織論の観点から検討し、実証的に分析する論文である。2つ目は、各自治体に家庭系廃棄物の処理責任があるため多くの焼却炉が稼働していることがリサイクル率にどのような影響を与えるかを理論的、実証的に研究する論文である。わが国にはOECD諸国の中でもとりわけ廃棄物の焼却率が高い国であるが、焼却技術の高度化が進んだことでEU諸国を中心に世界的に焼却率を高めるトレンドがみられるため、政策的にも重要なテーマと考えている。
1つ目においては、環境省による「一般廃棄物処理実態」をもとにパネルデータ分析の方法を使って分析を行い、日本に固有の家庭系廃棄物処理に関する一部事務組合という制度を考慮したとしても、民営化がリサイクル率に負の影響を与えているとは判断できないことが明らかになった。本論文は国内の学会で報告したが、現在、海外の共著者も含めて修正を行なっており、今年度中に学術誌に投稿する予定である。
2つ目については、経済理論に基づいた分析により、各自治体の焼却炉キャパシティが発生廃棄物量に比べて余裕がある場合、リサイクル率を減少させるインセンティブがあることを示した。その上で、因果推論の枠組みでマッチングによる実証分析を行い、理論的な結果がサポートされることを示した。本論文は2018年度に国内外で報告を予定しており、これらのコメントを受けて投稿する予定である。
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