EUがサーキュラーエコノミーパッケージを発表したことを皮切りに、世界的に資源の有効利用への関心が高まっている。この動きは循環経済というキーワードを単に環境の視点から論じているだけでなく、経済政策として位置付けている点に特徴がある。今後、資源循環政策だけでなく他の環境政策においても経済政策としての役割がますます強調されるものと考える。そうした背景のもとで、本研究では産業組織論の観点から、民営化のあり方が家庭系廃棄物・リサイクルにどのような影響を与えるかを分析した。市民にとって欠かせないインフラを提供する公的企業の民営化は、これまで世界の多くの国々で 実施され、その効果についても分析がなされてきたが、廃棄物処理・リサイクルの民営化が費用効率性をもたらすかどうかについての結論は既存研究ではクリアになっていない。
そこで、産業組織的な差異がその理由ではないかと考え、日本は一部事務組合が存在する例が多いという2重構造に着目して、サプライチェーンの上流と下流に二つの独占があるような場合 (すなわちダブルマージナライゼーションと呼ばれる状況にある場合)に行われた民営化がコストを引き上げているのではないかという仮説を検証した。
はじめに理論的分析で日本の家庭系廃棄物の収集運搬がダブルマージナライゼーションの状況にある場合を特徴付けた上でコストが高くなることを示した。その上で日本のデータを用いてパネルデータによる実証分析を行なったが、コスト増の有意な結果は得られなかった。ドイツや北欧の事例として日本の一部事務組合に相当するような組織が独占的地位を乱用してコスト増になったことが報告されているが、実証分析の結果は、我が国では利潤最大化ではなく収入中立的な行動をとっている可能性があることを示唆している。
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