研究課題/領域番号 |
16K03618
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
池下 研一郎 九州大学, 経済学研究院, 准教授 (80363315)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 競争政策 / 知的財産保護 / シュンペーター型成長モデル / 政治献金 / 研究開発 |
研究実績の概要 |
当初の研究計画では平成28年度は,大きく分けて1.「基礎的情報・文献の収集」,2.「シュンペーター型成長モデルを用いた競争政策と経済成長の分析」を行う計画だった。以下ではこれらの2点について説明する。 まず1.については,P. Aghion and S. N. Durlauf(eds.), Handbook of Economic Growth, vol.2B などを足掛かりに政府による規制や競争政策と経済成長に関する文献を収集した。また本研究では日本経済の成長戦略についても考察するため,日本経済の生産性分析に関する研究論文や書籍も収集した。ただ予定していたRIETIのワークショップやシンポジウムについては時間の都合上,参加できなかった。これらのイベントへの参加や情報収集については次年度以降に行いたい。 次に2.については,シュンペーター型成長モデルを用いた競争政策に関する分析を行った。具体的には,シュンペーター型の成長モデルに,知的財産保護政策を導入し,より強い保護政策が企業の利潤を高める一方で,強すぎる保護政策が研究開発費用(特に法務上の費用)を高めるような状況を分析した。分析の結果,経済成長率を最大にする保護水準が存在することを明らかにした。またこのモデルを用いて,特許保有者と非保有者の利害が対立することを示し,これによって特許保有者(企業の保有者であり,資産家)が,自らの利益誘導となるようなロビー活動を行い,より強い保護政策が実現することを示した。このような政策は高い経済成長率を実現する一方で,非資産家の利益を損なうものでもあり,競争政策によって格差が拡大する可能性を示している点でも重要である。最終的にこれらの結果と論文としてまとめ,国内学会や研究会で発表した。現在は国際査読誌に投稿するため,論文の修正を行っている途中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では平成28年度は,大きく分けて1.「基礎的情報・文献の収集」,2.「シュンペーター型成長モデルを用いた競争政策と経済成長の分析」を行う計画だった。1.については予定していたRIETIのワークショップやシンポジウム参加は実現できなかったものの,規制や競争政策と経済成長に関する文献や日本経済の生産性分析に関する研究論文や書籍については予定通り収集することができた。 また2についても,知的財産保護政策を導入したシュンペーター型成長モデルを構築し,競争政策と経済成長率との関係について分析することができた。またその分析の結果,保護政策を強化しすぎると,新規企業の研究開発が阻害されることにより,成長率が低下すること,特許保有者と非保有者の利害が対立し,これによって特許保有者が政治献金などの政治活動を行うインセンティブを持つことを明らかにすることができた。これらの結果はすでに論文としてまとめられ,国内学会や研究会で報告されている。実証研究との関連性等についてはより詳細に検討する必要があるが,当初の計画と照らし合わせると「おおむね順調に進展している」と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は予定計画の2年目であり,基本的には当初の研究計画通りに進めていく。具体的には28年度までのモデル分析を踏まえて,以下の2点について研究を行う。 1.シュンペーター型成長モデルを用いた競争政策と経済成長の研究 28年度は知的財産保護政策を取り上げ,シュンペーター型成長モデルを用いた分析を行い,一定の成果を得た。その一方で競争政策についてはより多様な側面から分析を行う必要がある。例えばハーバード大学のアギヨン教授らの研究では,市場競争の程度と研究開発には逆U字の関係があることが示されているが,彼らのモデルは研究開発を行う2企業からなるモデルであり,新規企業の参入を取り扱うことができない。そこで29年度ではアギヨン教授らの分析を拡張し,新規参入企業による研究開発活動を導入した成長モデルを構築,分析を行う。 2.女性や高齢者の労働市場参加と経済成長に関する動学的分析 労働経済学の領域,特に家計における労働供給に関連する論文や書籍を収集する。特に理論研究についてはシュンペーター型成長モデルとの接合性を意識しながら,文献調査を行う。そして収集した文献を足掛かりに,家計による労働供給行動,特に女性や高齢者の労働供給を導入した成長モデルを構築する。具体的にはシュンペーター型成長モデルに世代重複モデルの要素を導入し,家計による子育てや,高齢者の労働市場参加といった現象をモデルに導入し分析を行うことで女性や高齢者の労働参加が生産性上昇にどのような影響を与えるのか分析する。年度後半からはこれらの成果を論文にまとめ,学内のワークショップや国内学会やSingapore Economic Review Conferenceなどの国際コンファレンス等で報告する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は年度後半に交付が通知されたことにより,研究期間が短かった。このことに加えて類似の研究課題について所属先である九州大学経済学研究院からも研究費を受けた(経済学研究院特別研究経費に採択された)こともあり,この研究費を用いて資料の収集や論文の英語校正などの支出を行うことができた。したがって本課題の使用額は極めて少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の研究計画通りに研究費を執行すると同時に,次年度使用額については以下のように3つの目的での使用を計画している。第1に国際コンファレンスへの参加費として使用する。具体的には8月にシンガポールで行われる国際会議に参加し,研究発表を行うことを予定している。また追加で年度後半(12月~1月)についてもそれまでの研究成果について国際コンファレンスで報告する予定であり,このための海外旅費として用いる。第2には中国や台湾の研究者と共同研究の立ち上げのための旅費に使用する。第3に国内の研究会や研究打ち合わせの回数を増やすことを予定している。具体的には,金沢大学や日本女子大学,三重大学などで研究会や打ち合わせを行う予定である。これらの追加的な用途を考慮すると,計画的な研究費の使用を期待できる。
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